ドキドキソワソワとしながら、カルラは目の前の玄関の扉が開くのを待っている。
驚かそうと急な訪問をしてしまったけれど、喜んでもらえるだろうか。
手に下げている紙袋の中にはそれぞれから預かってきたプレゼントが詰まっている。
少しして、扉が開いた。
よし。
「カルラちゃん!」
「猫市ちゃん、お誕生日おめでとう!」
そう言ってカルラは猫市にまず自分からのプレゼントである手作りのケーキの入った小箱を渡す。
勿論中身はチョコケーキで、あっさりめの味にしてある。いちごも使って爽やかな酸味も合わせた、なかなかの自信作だ。
「わっ、ありがとう!わざわざ来てくれたの!入って!」
「いいの?じゃあ、少しだけ…!」
猫市の家にお邪魔するのは久しぶり。
玄関の戸が閉まると、猫市の足元からするりと影が現れた。
「影ちゃんこんにちは、元気?」
影は無表情にこくりと頷いた。
「今日は猫市ちゃんの誕生日だけど、影ちゃんは何かあげた?」
影は首を傾げた。
ううん、しまった。YesNoの返答じゃない質問をすると、意思疎通は難しいんだった。
そんなことを考えながら、案内されて猫市の部屋に入る。
片隅に漫画を描く文具が散らかっているのがとても彼女らしい。隠しきれない薄い本も。
前に訪れた時よりも、ファンタジー?な物が増えているけれど、あれは資料用なんだろうか。
随分使い込まれているようにも見えるけれど…。
「あっ、あんまり見ないでー!」
「ごめんごめんっ」
猫市が恥ずかしがるので、謝って視線を外す。
「そうだ猫市ちゃん、ケーキの他にもプレゼントあるの!」
「え、なになに」
興味津々!といったようにカルラの側に座った猫市にの前に、紙袋に入った品々を取り出して示していく。
小さなブーケ。
小瓶に入った怪しい液体。
封筒。
缶のミルク紅茶。
全く統一性のないそれらは、カルラと共通の知人から預かってきたものだ。
「まずはこれ、ケーラさんから。来る前に丁度会ってね、誕生日だって言ったら、これ奢りだって。」
苦笑しながらミルク紅茶の缶を猫市の前に置く。
もうすっかり冷めてしまった。
「あの人らしいよね」
「…何にも入ってない?」
「目の前で買ってたから、多分大丈夫じゃないかな?」
「ん、じゃあ貰っとく」
胡乱気な目で警戒しながらも猫市は受け取った。
「次はこれ、ハルミさんから春の花のブーケ。季節の変わり目まで枯れない長持ち仕様らしいよ。いい匂いもするって」
ブーケを猫市に渡すと、彼女は色とりどりのそれを顔のそばに近付けて深呼吸し、ふにゃっと相好を崩した。
「わー!流石ハルミさん…!」
どうやら香りもアタリだったようだ。
プレゼントらしいプレゼントで喜ぶ猫市にカルラも笑みをこぼす。
「次は四巡から。封筒…なんだけど、中身はマッサージのタダ券だって。……ええと、頼むときはその…、注意してね?」
「う、うん。わかった。」
神妙な顔で頷いて猫市は受け取る。
本当に渡してよかったのだろうかとカルラは少しだけ悩んだ。
…でも仕方ない。四巡のマッサージの腕は、腕だけはいいことはカルラも認めるところだ。
「最後はこれ、ノアールから!私はこれが一番すごいと思うのよね。瓶の中身は“どんな汚れや破損も修復する魔法洗濯薬”だって!その白衣に使えって事じゃないかな」
「すごいね!瓶もおしゃれー…飾りたい」
アンティークな感じのする瓶の中に仄かに緑青色に発光するとろみのある液体が揺れ、瓶の栓はコルクのような材質で丁寧に封がしてある。
実用性もあり、そこらに置いておいても様になる二つとない凄いプレゼントだった。
私も欲しい。
「っと。私達からはこれだけ。喜んでもらえたかな?」
カルラがやや心配そうに問うと
「もっちろん!」
とても良い笑顔で猫市が笑ったので、カルラもとても嬉しくなる。
「よかった!」
そうして笑い合う。
学校の外でもこうしてたまに会えて、一緒に笑えるのだから友達とは大切なものだとカルラは思う。来年もこうして祝えたらいいな。
2016/03/21
Happy Birthday!
このあと猫市殿にプレゼントを上げたくなった影ちゃんにカルラちゃんが襲われヘロヘロになってお泊り会に突入に270ペソ。