猫市と離れてトテトテとマイペースに教室の床を歩く黒猫の異形。
カルラは掬い上げるようにして彼を浚い、自身の席に座って彼を膝の上に乗せた。
不満気な顔をして、つんつんと猫の鼻先を突く。

「影ちゃんってばずるいー、ずるいー」

とっても迷惑そうにしている赤い隻眼を覗き込み、カルラは不満を表明するべく分かりやすく膨れ面をした。

「ご飯って名目で遠慮なく猫市ちゃんに触れて四六時中一緒……なのは仕方ないとして。朝、私の前でこれ見よがしに口にチューしたでしょ。羨ましい。」

ちらりと本音が漏れる。
影は尻尾を揺らして興味なさそうにカルラの訴えを眺めていた。

「影ちゃんってば、私の気持ち知ってるクセにっ、私はほっぺチュー止まりなのにーっ、く、唇にするなんて!」

取り留めもなくカルラが駄々を捏ねるように影に八つ当たりをする。
いよいよ影が、くああっと大口を開けて、興味ないと言うようにあくびの仕草をしてみせた。

「〜〜もう!許さないからねっ!真面目に聞くくらいしてよ!このやろー!ばかやろー!ねこやろー!」

影が何も言わない(言えない)事を良いことに、カルラは掌でその小さな顔を包み込んでぐにぐにと異形の頬を揉みくちゃにする。


「ん……?って事は、影ちゃんに私がちゅーしたら、


 …………猫市ちゃんと間接キス…!?」




影をじーっと見つめるカルラに抵抗してジタバタと暴れ始めた影の胴体を、逃さないとばかりにグイと掴み持ち上げる。

「大人しくしなさい…、私と、ちゅーするのよ影ちゃんッ」

迫るカルラの顔面を尻尾と足でビシバシと叩いていた影が、あと唇が数センチというところで、ぴたりとその動きを大人しくさせた。
カルラは悪役よろしくニヤリと笑ってさらに距離を縮めようとした、そして

「よし、やっと私とちゅーする気にな…っ」「あのー、カルラちゃん、あんまり影ちゃんいじめちゃダメだよ…?」

被さるように聞こえたやんわりと制止するその声に、カルラは影を持ち上げたままギギギと首を動かして声の主を見た。

「え、あの、猫市ちゃ、どこから聞いて」
「チューするのよってトコ…。そんなに影ちゃん好きならひとこと言ってくれたら良かったのに…。」

拗ねたような表情をしてみせる猫市にカルラは赤い顔をして慌てて影を解放し、力いっぱい立ち上がって叫んだ。

「違ああああうううう猫市ちゃんんんん!それは誤解です!!」
「いいもーん、いいもーん、影ちゃんもカルラちゃんも置いて一人で帰っちゃうからねー」
「ダメ―!まってー!」

ぷいと背を向けて歩いていってしまった猫市をカルラが鞄をひっつかんで追いかけていった。


その後すぐ、彼女たちが廊下を並び歩いて、
そっとその手と手が繋がれたのを見送り、影はふらりと姿を眩ませた。




2014/01/11
「#甘甘」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -