なかなか服が乾かない。
濡れて水気を吸い重くなった制服が肌に張り付いて気持ちが悪く、カルラはスカートを持ち上げてパタパタと振ってみたり、
セーラー服を引張り、余った部分を寄せて纏め、捻って水を絞ってみたりもしたが、根本的な解決はならず。
そうしているうちに、だんだん体が冷えてきて、寒気がするようになった。
自然と体がぶるりと震える。
まだ暖かいマグカップを両手で握り直して暖をとる。
「カルラ」
低い声に名前を呼ばれてカルラがそちらへ振り向くと、先ほどまで話しかけてもどこかよそよそしい雰囲気を纏っていた鏡藍が、真顔でじっとこちらを見つめていた。
「はい?」
カルラは飲みかけのマグカップを近くの机に置いて、近づいて来た鏡藍を見上げる。
何を考えているのか読めない表情で、静かに視線を注がれてカルラは困ってしまうが、いつか先生に言われたとおりに見つめ返したまま目は逸らさないでいた。
そんなさなか、一瞬、鋭い閃光が窓から差し込んで、強い光と影を切り取る。
次いで訪れた腹の底を震わせるような雷鳴に驚いて、つい顔を背けたカルラに鏡藍はとろりと微笑むと、そっとカルラの手を取った。
「濡れた服が冷えて、寒いだろう。……こっちへ。」
半分飲み残したマグカップを置き去りに、カルラは鏡藍先生に手を引かれてベッドへ近づく。
綺麗に整えられたベッドにある布団を鏡藍に指し示されて、先ほどの先生の発言からカルラは何を勧められているのか素早く理解するも、躊躇う。
「あの、でも、布団が濡れて……」
「気にするな」
風邪を引くといけないと言われ、とん、と肩を鏡藍に押されて、ベッドの上に腰を下ろしてしまう。
ああそんなダメなのに、とカルラは思ったが仕方がない。
一度汚してしまったならもう遠慮無く借りてしまおうと腹を決め、カルラは大人しくベッドに上がり足元から布団を手繰り寄せようとしたところで、再びカーテンが引かれる音がした。
カルラがはやや怪訝そうな表情で顔を上げる。
「あれ、鏡藍先生?」
カーテンを閉めたはずの鏡藍先生が、なぜがカーテンの内側にいる。
疑問の声を上げて状況を理解してないカルラに鏡藍は手を伸ばし、髪を優しく撫でた。
そして吸い寄せられるように彼女と見つめ合うと、口付ける。
「……、ふ」
突然の鏡藍の行動に、カルラの目が見開かれて、瞬く。
啄むようにしてその先を求めると、彼女の手のひらは鏡藍の胸を押し返そうとした。
鏡藍はその冷えた手を掴んで、指を絡ませて握り込む。
それでもなお鏡藍から逃れようと体が引かれるのを阻むため、彼女の後頭部にもう片方の手をやり軽く押さえる。
「……ぅん……っ」
抗えない事を悟ったカルラは辛そうに目を細めながらも、おずおずと唇を開き、鏡藍に応えはじめる。
段々と深くなる。合間に熱い吐息が漏れる。
口角を変えて、貪るようにして彼女の舌を執拗に捉え、唇を食む。
「っ……ぅ、はあ……ぁ」
鏡藍から唐突に贈られた濃密な口付けにカルラは息絶え絶えになる。
じん、と舌先に甘い感覚が残されて、なかなか消えてくれない。
ようやく開放されたカルラは頬を染め、羞恥から鏡藍を睨めつける。
「せ、せんせ、いきなり何を」
「あまり無防備になるな。どうしたらいいのか、分からなくなるだろう。」
力の抜けているカルラの体を鏡藍はベッドに沈めながら、彼女の耳元で咎めるような口調で言う。
「なんの、ことで……ひぅっ」
いつの間にか姿勢が変わり、指を絡めて繋いだ手がシーツに縫いとめられた。
鏡藍に組み敷かれたカルラは困惑した表情を浮かべる。
「無自覚か?……煽ってくれるな」
耳に囁きかけられる鏡藍のその言葉の意味を必死で理解しようとするカルラだが、彼の吐息の感触にくすぐったさを覚えて気を取られ、まったく思考が纏まらない。
鏡藍は無防備に晒された首元の薄く柔らかい皮膚を吸い、その刺激にカルラは情けない声を上げて、思わず唇を噛んで耐えることで、それ以上の追求ができなくなってしまった。
「ん…、んん……!」
ぞくぞくと背筋を這い登る擽ったさに似た感覚にカルラは身を無意識に捩るが、抵抗はやんわりと抑えこまれる。
首筋に顔を埋めたままの鏡藍は、空いた片手をカルラのセーラー服の胸元に伸ばして、つかの間まさぐると、するりと紺色のタイを引きぬく。
その一連の動作はなんの躊躇もなくあっという間のことだった。止める間もない。
鏡藍の手に収められたタイがひらりと床へ舞い落ちた。
「……あっ」
プツっと小さな音がしてセーラー服の襟元のスナップが外されていく、彼の手で襟が押し広げられる。
胸元がはだけ、外気に晒された白い肌が粟立った。
「カルラ、」
鏡藍は熱に浮かされたように陶然とした表情で名を呼びながら、真っ赤になっているカルラを見つめて彼女を求める。
「や、ぁ!せんせ、鏡藍せんせ…、…あう……っ」
小さくキスを落としてからカルラの首筋に再び顔を埋めると、艶かしく舌を這わせ、鎖骨のくぼみをなぞり胸元へ辿り着く。
胸元でまた強く肌に吸い付かれて、カルラはその性急さに半泣きになりながら、自由になる片手で鏡藍の頭を掻き抱くようにして彼の行動を止めようとする。
カルラのそのささやかな抵抗で、彼女の胸に顔をおもいっきり埋めてしまった鏡藍は、何故か少し慌てたように身を離す。
彼女を見下ろせば、首筋と胸の白い肌に赤い跡が点々と刻まれている。
自分がつけた跡だった。
指でその箇所をなぞると、カルラはぎゅうっと目をつむって、頤を仰け反らせ鏡藍から顔を背けた。
「もう、これ以上は……っ」
搾り出されるようにして上がった彼女からの自制を促す声に、鏡藍は少しだけ我に返る。
こちらの様子をおずおずと伺うカルラの半泣き状態の潤んだ瞳と、視線がかち合って、ぐらりと理性が揺すぶられるも、どれくらいこうしていたのか定かでなく。
……外の雨と雷鳴の様子から、猫市が保健室から出て行って随分時間が経っているように鏡藍は思った。
「……そうだな、」
鏡藍は身体を引いて、カルラを抱き起こしベッドの上に座らせる。
布団を引き寄せると彼女の身体を包む。
「猫市が戻るまで、隠しておけ。それと、その……服が濡れると…色々、透けている。それで……その。」
恥ずかしそうに、やや目を逸らして鏡藍から告げられた言葉に、カルラは盛大に固まった。
そして、コレまで以上に真っ赤になり言葉を失うと、頭から布団を被ってしまったのだった。
2013/08/11
だ・そ・く
猫市さんに続きを書いてもらいました!
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