暑い夏、特別登校日の放課後、咽るような晴天が一転。
一瞬にして暗雲が立ち込めてバケツの水をひっくり返したような大雨となった。
校外へ繰り出ていた生徒は叫び声を上げながら校内へ駆け戻り、慌ただしくバタバタと廊下を走っていく。
低く轟き出した雷鳴に、生徒や用務員に慌てて閉じられることとなった廊下の窓から吹き込んできている雨粒混じりの冷たい風は、学園の上空に積乱雲が齎らされたことを告げていた。

そんななか、保健室の扉ががらりと開いた。
二年生の猫市とカルラが顔を覗かせる。
二人の少女は困った表情をしていて、髪からはぽたぽたと透明なしずくが垂れていた。
どうやら雨に打たれてきたらしい。


「せんせー、ちょっと避難させて……!」

「あーあ、びしょ濡れ……あの、タオルを貸してもらえませんか?」

鏡藍は戸棚からフェイスタオルやバスタオルを数枚取り出して手渡すと、ポットに水を汲み入れ電源を入れて湯を沸かす。
何か暖かい飲み物でも提供しなければ冷房の効いているこの部屋では身体を冷やしてしまいそうだった。

「じゃ、カルラちゃん行ってくるね」

「うん、ごめんね、お願いします」

オロオロとしながらもタオルで水気を拭い何事か会話していた二人のうち、猫市が出て行ってしまった。
鏡藍が何事かと呼び止める前に走り去ってしまう。

「猫市はどうした?」

「白衣のおかげで私ほどは濡れなかったから、教室に着替えを取りに行ってくれる、って。あ、ごめんなさい……保健室の床、濡らしてしまって。後で掃除しますね。」

タオルで髪を包みなかば絞るようにして水気を拭っていたカルラは、床を見てうつむきながら答える。

「……。」

めずらしく何の返答もない鏡藍にカルラが視線を向けると、彼は少し焦ったような困ったような表情をして顔を逸らした。
カルラは首を傾げつつ、水分を少しでも拭うことに気を取られてあまり気にしなかったが。なにか言いたそうに、鏡藍は口を開きそして、閉じた。

「……着替えるにしても、今のうちによく拭いておけ。」


それだけをため息混じりに鏡藍は言うと、できるだけカルラに意識を向けないようにしてデスクへと向かい椅子へ深く腰掛ける。


彼女が自分を信頼しているのか……、それとも眼球愛好のことが知られて以来ソレ以外に興味はないのだと思い油断しているのか、はたまた何か別の思惑があるのか。
有り体に、一言で言ってしまえば、彼女はあまりに無防備がすぎるのだった。

自分のことを好きだと言い、時折、真っ直ぐな感情を向けてくる相手。
憎からず思っているのは伝わってると思いたい。

それゆえ今この状況は、鏡藍でなくても分別を弁えた者なら、ため息をつきたくもなるだろう。目を逸らしてしまうだろう。多少、表情が緩んでしまうこともあるだろう。

そんな彼女の白い制服が、雨に濡れて、薄く透けていることに気がついてしまっては。

今更、見てしまったものは、もう仕方がないのだが、どうにも……。
いつも以上に意識している自分に苦笑いを禁じえなかった。


そんな鏡藍の懊悩も素知らぬ顔でひとまず落ち着いたカルラは、外の天候のことを気にしていた。
一瞬でカルラと猫市を濡れ鼠にしてしまった嵐。
窓に叩きつけられる雨粒はその大きさと量を増し、雷はだんだん近くなってきている。
これから更に荒れることはあってもすぐに止みそうにはかった。
このまま、帰れないのは困るなぁと、冷えてきた身体を抱きしめる。

さり気なく鏡藍がカルラの様子を伺うと、水分を吸って湿気たフェイスタオルを頼りなさげに広げ首からかけたり、膝にタオルを落とし掛けてはいる、どうやら寒いらしい。微かに震えているようだ。

鏡藍は気を紛らわせるように、ティーポットとマグカップを用意してそぞろに茶を注ぎ、あまり視線を合わせないようにしながらカルラにカップを差し出す。

「ありがとう、ございます」

マグカップを両手で包み込み、カルラはすぐに口をつける。
扱ったのか、ふーふーと覚ます仕草をして、そっと一口飲み下し、鏡藍へ「美味しいです」と嬉しそうな顔を向ける。

そんな姿を見てしまうと、なんともモヤモヤした感情が湧き上がる。
……いや、ああ。目に毒、だ。

鏡藍は自分の理性が試されているような落ち着かない心持ちになって、
はやく同級生の猫市が帰っててきはくれないかと、そっとまた溜め息をついた。




2013/08/10
カルラ「猫市ちゃん直伝の色仕掛けが……効かない、だと……!?」

嘘です。


さあさあ!ここで停電来てくださいよ。
タイミングよく雷落ちなさいよ。
雷の閃光が写ったカルラちゃんの瞳に見とれてしまうがいいのです。

ついでに教室で雷と停電に驚いた猫市ちゃんは騎士くんに捕まってしまうがいいのです。

さぁ邪魔者は消したぞ!ひゃっはー!

こっそり


※猫市さんに続きを書いてもらいました!
所によりハートが降るでしょう
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