篭った熱気、荒い吐息と、甘ったるい煙草の香りが混じった空気が二人きりの部屋にのしかかっていた。
うつ伏せで寝転がりふかふかのクッションに顔を埋めながら四巡は何でこんなことになってるのだっけと、快楽の余韻にぼやけ、倦怠感と睡魔に襲われてぼんやりした頭で思った。
猫に呼ばれて、今日も仕事できていた筈なのだが。
何もかも俺好みの、面白い、良い体をしているのが悪い。
それから、猫が大人しく施術されてくれないのが悪い。
何が何でも全部猫さんのせいだ。
彼の肌は手に吸い付くようで、いくら触っていても飽きない。
楽しせてくれる彼には最高のサービスをしようと、持てる技術の全てを駆使してマッサージを施しているうちに、猫は堪え切れずに甘い声を上げ始る。
それを聞いている内に猫の反応に嬉しくなって、ほんの少しだけ、あとちょっとと、どんどん快楽を与えていくと、四巡自身も歯止めが効かなくなってしまう。
これがいつもの流れだった。
ここで調子にのる四巡に気が付き、我に返った猫が彼をひっぱたくこともあるが、そのまま二人で身を任せると、今日このようになる。
猫さんを抱ける確立は半々だが、許してくれる頻度は増えたように感じるから、きっと気に入ってもらえてるんだろうと四巡は勝手に納得している。
そうだ。やみつきになってしまえばいい。
大抵猫さんは、普段から余裕たっぷりな態度なので、切羽詰まった掠れた声を上げて身悶え、悦楽に涙をこぼし甘い吐息を吐く彼の様子には、心理的にひどく満足感をおぼえる。
もっと見たい。触りたい。鳴かせたい。支配したい。
四巡がどれだけ技工を凝らしてやりたい放題しても猫は快楽で壊れたりしないから安心して触れられる。
だが、猫は負けず嫌いだ。大人しくヤられっぱなしで、ハイ終わりということにはならない。
一度は主導権を握っても、結局はどういうわけか復活の早い彼にやり込められてしまう。
そして互いに上か下かも分からないくらいになって、快楽に没頭して、ついついこの有り様だった。
終いには二人して白いシーツの上に沈む。
しかし、それも最近は長くは続かない。
すでに起き上がって、伏せる四巡の隣で余裕たっぷりに胡座をかいて座り、美味しそうに煙草をふかす猫を、四巡は横目で見る。
タバコの煙は好きではないが、彼のものだとあまり気にならなかった。
彼らしい香りがするからだろう。
猫の表情はすっきりしているが、下半身はなんだかダルそうだった。あれだけ動けば当然か。
「猫さん、お疲れ様でした…」
「おー。」
「それにしても、激しすぎますよ…俺の午後の予約の仕事、できなかったの、猫さんのせいですからね。」
「知るか。四巡の手つきがやらしいのが悪いんだよ、自業自得でしょ」
真っ当に言い返されてしまった。
ぐうの音も出ずに、四巡は枕に顔を沈めた。もういっそ、このまま寝てしまおうか。
猫とこうしていることに何の異論も無いが、これでいいのだろうかとたまに思う。
疲れをとるために呼ばれたはずが、疲れを取るどころが激しい運動を二人でしていて、しかも自分はバテてベッドに沈むこの有様。
「何をやってるのだか」と黒虎会の人たちにいい加減呆れられそうだったが、どうにも止められそうにない。
やみつきになっているのは四巡自身らしい。
「…猫さん、もう一回」
「ばーか」
2013/03/13