お風呂上りに体重計に乗ったカルラは、体重計の針が設定した数よりも大きく右にずれた事に地味にショックをうけていた。

さすがに、チョコレートを食べ過ぎたのだろう。
チョコ好きで意気投合した先輩たちと連日チョコを持ち寄ってお菓子パーティーしたのがまずかった…。
誘われればホイホイと参加してしまう。あんな誘惑に抗うことなんてできやしない。
でも、このままだと恋する女の子として、まずいのだ。
体重が増えたことを思春期の女の子らしく気にしたカルラは思い切って、チョコレート断ちを行うことにした。
そうして3日がたったのだが。

「なるほど。それで、元気がないのか。」

いつもの保健室で訪れた生徒にお茶を出す鏡藍は生徒の良き相談役でもあった。
なかでも常連であるカルラへ、お茶うけにと出したチョコビスケット。
半泣きの体で「今日は食べれない」と痩せ我慢で首を振ったカルラの話しを聞いて、鏡藍は頷いた。

具体的に何kg増えたかなどは固く口を閉ざして語らなかったカルラであったが、もともと彼女たちの年頃は成長期でありホルモンバランスの影響などで体型が変わりやすく、体重の変動も珍しくはない。
脂質と糖質の多いものを常時暴食し普段の生活に支障をきたしている…などであれば鏡藍にも指導のしようがあるのだが、3時のおやつの一つでそう過敏になることもないのではないか、というのが鏡藍の見解だった。 それでも食べようとしない少女心は難しい。

寧ろ、彼女がチョコレートを食べないでいることで貯まるストレスのほうが気掛かりだ。
目に見えて元気がないカルラを鏡藍は窺う。
カルラはチョコビスケットを眺めながらぼんやりしていた。

そんなに食べたいならば一口だけ、と勧めようと鏡藍が袋に手を伸ばした。
その手をカルラがむんずと掴んで、指を絡める。

「先生」

「なんだ」

「口が寂しいです」

きゅっと手が握りこまれる。
カルラはまっすぐに鏡藍を見上げて言葉を続けた。

「……ので、キスしてください」

「は?」

突然のカルラの催促に鏡藍は怪訝そうに彼女の顔をみた。カルラは口元に微笑を浮かべているが目が笑っていない。

「チョコレートを口で溶かすのは、キスの四倍脳が活性化するとか。本当かどうか比べてみたいです。」

「それは」

俗説ではないか。と紡ごうとした唇に、柔らかなものが押し当てられる。
遅れてふわりとした彼女の香りと体温、しなだれかかる体の重み。

「カルラ、」

「して、鏡藍せんせ。一回だけ、先生から。そしたら私、我慢するから。」

チョコレート分を切らせ、今目の前にあるのに我慢をしてる内に彼女の中の何かが壊れてしまったかのようだった。
熱っぽく誘う彼女の瞳に目が吸い寄せられる。

ほしいものを目の前にして、理性に揺さぶりをかけられるのは鏡藍とて同じことだ。
彼女は一度きりで我慢をすると強請るが、こっちが一度だけでは我慢できなくなるかもしれないのに。
知っていてやっているのか、いないのか。

鏡藍の頬を愛おしそうに撫でるカルラの手つきと、不意をつかれて瞼に落とされたキスに鏡藍は深々とため息をついて覚悟を決める。

「……一度きりだ」

強請ったことを彼女が後悔するくらい、互いの我慢が報われるくらい、そんな一度きりをくれてやろう。

雰囲気を教師のそれから変えて真剣な表情でカルラを見つめる鏡藍は、嬉しそうににっこりと笑う彼女の腰を引き寄せて口付ける。

彼女が望むより遥かに深く熱の篭った大人のキスを呼吸を貪るようにして与え、カルラが音を上げるのはそう遅くはなかったが彼は許さなかったと、保健室のベットで寝ていた目撃者は語る。




2013/01/10
誰もいないなんてことはなかった保健室。

カルラちゃんは鏡藍先生とのちゅーの刺激が強すぎてチョコレートのことは一週間くらいわすれたそうな。


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