チョコを巡って廊下で行われたカルラと古典担当教師の久楼先生との攻防は、どんなに脅されてもチョコを彼に差し出さなかったという点ではカルラの勝利で幕を閉じたが、そのために彼女が支払った代償は大きかった。

「ううー…」

先生に掴まれたカルラの細い手首には、くっきりと大きな手形がついている。
彼の怪力は学園でも有名で、力任せにへし折られなかっただけ儲けものなのかもしれない。
ほぼ半泣きで痣を擦るカルラに猫市は言う。

「跡ついちゃったね。」
「ちょっと痛い、かも…。」

久楼先生に楯突いたのだから仕方がないという気持ちと、そんな無茶をしたカルラを責める気持ちとが混ざり合う。
その直後に起きた、二人にとって衝撃的な光景を思い返して猫市もぎゅうっと眉を寄せて顰め面になってしまった。

「カルラちゃん、チョコなら私はまたあげるから、もう、絶対に、あんな事されちゃ駄目だよ。」

あんなこと、という言葉にカルラは落ち込みながらコクコクと頷く。
まだ、口の中に残っている気がする。
接吻と言うよりは激しすぎる捕食の感触。蠢く舌と咽返るチョコの香り。
隅々まで舐め取られ、あんなに深く口内をまさぐられたのは初めてでビックリし過ぎて腰が抜けた。
猫市ちゃんにも許したことなかったのに、……。
そんなことを思考停止したカルラが思う頃、ひと通り舐め尽くして、だがとても不満足そうに糖類ジャンキーの彼は去った。


何故そんな酷い顛末を迎えたのかというと。
カルラが壁際に追い詰められ手首を拘束され先生と悶着になった際に、猫市から分けて貰ったチョコを絶対に渡すまいとして意地を張ったカルラは、久楼先生の一瞬の隙をついて自らの口にチョコを放り込んで噛み砕いたのだ。

食べて飲み込んでしまえばこちらの勝ちカルラはそう考えた。
しかし彼が愕然としたのも一瞬。
目の前で消えたチョコを追って、先生はカルラの口に吸い付くという、教師としても男としてもとんでもないことをしてくれたのだった。

その光景を追いかけてきた猫市にバッチリ見られてしまったのも痛い。
隣を歩く猫市の機嫌の悪さを感じ取ってカルラはますます落ち込んでいた。
いつもみたいに「次の漫画のネタになる!」とか言ってくれないのがまた、辛い。

けれど。
チョコはチョコ、されどチョコなのだ。
猫市から貰ったチョコを他の、しかも男に奪われてなるものか!
払った代償は大きすぎるけれど、どうしても渡したくなかった。
そんな勝手な意地だけれど、誰か頑張った私を少しくらい褒めて欲しいとカルラは心でぼやく。
しょんぼりと廊下を歩いているうち、猫市が教室の扉の前で立ち止まった。カルラは顔を上げて、首を傾げた。

「あれ、ここは空き教室…」
「いいのいいの。こっち、みんなには内緒だからね、ほら、また先生に見つからない内に。」

猫市が入っていくのにカルラも続く。
空き教室の棚をゴソゴソと、やって、猫市が取り出したのは、密封容器に入れられた一粒チョコレートだった。
まだ少し元気のないカルラに猫市は差し出す。
どこか不安そうにそのチョコレートを見るカルラに猫市は笑って言う。

「はい、食べていいよ。」

カルラの顔がパッと輝いた。

「貰っちゃうよ…?」
「うん。」

今度こそ、味わって食べようと、カルラは
口に含んだチョコを舌で転がして、溶かす。満足そうに一粒食べ終えて次に手を伸ばす前に猫市はカルラを呼んだ。

「カルラちゃん、こっち向いて」

「ん?…んぅ…。」

近づく猫市の顔にカルラは瞼を伏せる。
いつもの触れ合うような口付けから、少しづつ、深く。久楼先生にまけないくらいに。でも、優しく、ちゃんと恋人同士のキスを。

二人とも、そんなにキスが上手な訳ではない。
特にカルラは拙い。影で慣れてる分猫市が主導を握ることが常で、慣れないキスに音を上げるのもカルラが早かった。

「…ふ、深い……。」

顔を赤くして照れるカルラに猫市はにやにやしながら誘いかける。

「今度から、チョコレートは見つからないところで二人で食べようね?」

「…うん。」


チョコレートの余韻だけじゃない、二人だけに感じる甘さをもって。
とても幸せな甘いひととき。
リア充爆発と言って憚らない久楼先生には絶対に味わえない、そんな甘さをこれからも存分に楽しむ。



だから、カルラちゃんの唇を奪われたこと、悔しくなんてないんだからね!





2012/11/29
久楼先生が完全悪役で申し訳ない。
「猫市殿とカルラちゃんの百合」リクエスト。




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