「……あなた、」

すれ違いざまに腕を掴まれて、強制的に振り向かされる。

「へっ?」

何事かと声のした方を仰げば、鳶色の瞳とかちあった。
その瞳に獰猛な光が灯っていたのを見て警戒する。
自分を見下ろすのはえらく長身の男、彼は確か、猫市ちゃんとカルラちゃんと同じクラスの四巡といったか。

「何か用―」

と言いかけた時、突然に脚に衝撃を受けて世界が反転。
強かに地面に叩きつけられて一気に肺から空気が抜けた。
同時に打ち付けた頭がクラクラする。視界の明滅。
しかしそうしてはいられない。目を白黒させながらも自分を叱咤し状況を確認する。
どうやら目の前の彼に攻撃を受けたようだ。じっとイリューを見下ろす、彼の真顔が怖い。

「変、ですね。」

地面に転がったイリューに覆い被さりながら、四巡は訳の分からないことを言った。

「…見ただけじゃ分からないな…失礼します。」

何事でもないような自然な動きでシャツの第一ボタンが外される。

「は!?ちょっと何して…っ!」

混乱のままイリューは体を起こそうとして、しかしそれは叶わなかった。
イリューの腰に馬乗りになった四巡は肩を掴んで押し、再び地面に押し付ける。
全体重を乗せた押さえつけと腹筋運動では、四巡に軍配が上がるのは時間の問題だった。
何とか彼から逃れようと、四巡の腕を掴んだ。
が、イリューの手は、自身の着ていた学ランにどういう訳か絡め取られた。腕を振るとつっかえる。
袖と裾が固く結ばれ袋状に…くそっいつの間に!
学ランを脱ごうと藻掻くが、なかなかうまくいかない。

そうしている間にも、四巡の魔の手は進む。
一瞬、四巡の腰が浮いて足が自由になった。
蹴りを入れようと、膝を蹴り上げたイリューにも四巡は怯まない。
蹴られながらも指先は正確だった。ベルトの留め具を外す。ズボンが太腿当たりまでずり降ろされ、緩めたベルトを素早く締められた。
しまった、蹴ろうにもズボンが絡まって足がうまく動かせない。
なんでこんなに手馴れてるんだ!

突然始まった乱痴気騒ぎに人々はポカンとして立ち尽くすのみである。

「誰か、た、助け……っ」

「必要ありませんよ。」

四巡が発した気迫迫る声音に、誰かがゴクリと息を呑んだ。
邪魔をすれば殺すと背中が言っている。そして、誰も動かなかった。
薄情な人間どもめ!!

「さ、大人しくしてください。ちょっとだけ、さきっちょだけだから、すぐ済みますから。」

四巡が何処かの暴漢の名台詞を吐いた。
え、まさか。掘られるのか?

あっという間に手首をまとめられて足も押さえつけられてもう殆ど身動きがとれない。

そそそそそそ、それは、いやだー!!
何考えてるんだコイツ!

イリューは最悪な想像を頭から追い出すために頭を振った。片手でプチプチとカッターシャツのボタンが外されて白い肌が見えた。
暴かれた箇所に四巡の手のひらが。
皮膚をぐぅっと押され、擦られ、撫でられ、足りないとばかりにさらに弄られる面積は増える。

「やめろ、ちょ、ふざけんなぁ…っ」

「俺は真剣。」

「おい!キャラ変わってる!!」

「これが素なんだ」

適当な受け答えをされる。
会話で気を逸らそうにも四巡の手は休まらない。
這い回る手に身を捩り、擽ったさや痛みに声を漏らさないよう歯を食いしばる。
首筋に舌を這わされて全身に鳥肌を立て半泣きになったとき、四巡の動きがピタリと止まった。
何故か四巡は眉を寄せて顰め面をしていた。

「やっぱり、違いますね。……なんだ…。…人間じゃないのか……」

最後の方は辛うじてイリューに聞こえる程度の声音だった。
四巡はイリューから興味を失ったようで、のっそり立ち上がると、肩を落として静かにその場を去った。

放置されたイリューは呆然と呟いた。

「え…、なんだこれ……」

後に残されたのは、乱された衣服、丸出しになった下着、地面に横たわる情けない顔をした銀髪の少年。
そして、彼に降り注ぐ生暖かい生徒たちの視線。

何とも言えない空気が流れる中、

《ピンピロリーン》

誰かの携帯から鳴ったカメラモードのシャッター音に、イリューはついに心が折れてほろりと涙した。






2012/10/22
イリューくんを泣かせてみようという試み

四巡は男には容赦しません(捕食的な意味で)
イリューくんを見かけたまたま周りに知り合いがおらず暴走を止めるものがなかった結果がコレだよ!
彼の体が精巧にできてて人間かそうでないかの区別がつかずにすっきりしたかったのと、そういうもの珍しさも相まって襲撃…。


【ごじつ。】

イ「私ってこのままでいいのかな。四巡にもやり込められるし、なんだかなぁ」
ノ「何を悩んでおる。そのままでいれば良いではないか」
イ「何故?」
ノ「キャラが被る」
イ「えっそっちの意味で!?」
ノ「銀髪、性別不詳、不思議生命体、不死身、損な役回り…ふっ、これでクールでも気取られようものなら我の立つ瀬が」
イ「ノアくんそんなの気にする人だっけ!?」
ノ「なんだ、元気ではないか。まだ少し落ち込んでいるとカルラから聞き及んでいたが」
イ「何か一瞬どうでもよくなるくらい吃驚したよノアくん」
ノ「…勿論、冗談であるぞ?」
イ「そういうメタなボケ、どっかの世界線がバグったのかと思ってヒュンってなるよヤメテ」




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