ヘッドホンをつけて心地良い音楽を聞きながら軽くリズムに乗って廊下を歩いていた。
そんな時、トントンと肩を叩かれたら誰でもいい気はしないだろう。
ムッとし文句を口にしながら振り返る。

「今いいところなんです邪魔しないでくださ―…」

そして枝菱は声を失った。

「あ、ごめんね?生徒手帳、落としてたよ」

目の前に、憧れの先輩が居る。

「何回も、枝菱くんって、呼びかけたんだけど」

さらに、名前を知られている。
そして、その手には生徒手帳…!
最悪が浮かんだ。
音楽鑑賞を邪魔された腹立ちと名前を呼ばれた嬉しさと生徒手帳を差し出された状況の混乱でわけが分からなくなる。
はやく、これを取り返さねば。

「……。」

枝菱は顔を真赤にしてカルラの手からひったくるように差し出された生徒手帳を奪いとった。
そして、おそるおそる口を開いた。

「…中、見ました??」

バクバクと心臓が鳴る。ヘッドホンから流れる音楽よりずっとリズムが早い。

カルラ先輩は首をかしげた。
何故そんなことを聞くのか、と言った具合だ。

枝菱は心の中で嘆く。ああ、落とすのは良いとしても誰よりも彼女に拾われたくはなかった。
こんな下手なラノベのような事が起きるなんて。

頭を抱えたくなりながらカルラ先輩の言葉を死刑宣告される気持ちで待った。

「…ううん。名前が書いてある表紙しか見てないよ」

枝菱はその一言に一気に虚脱した。

「あ、そうですか…よ、良かった…」

なんせ、生徒手帳の中には彼女の――…。

がっくりしてしまった枝菱を前にどう声をかけたものかとカルラが悩んでいるうちに、始業ベルが鳴る。

「ええと、それじゃ、私いくね。枝菱くん今度は落とさないように気をつけるんだよ。じゃあね!」

にっこりと、カルラ先輩は「手帳の中の写真」と同じ笑顔を残して、去って行った。
枝菱はぽうっとしながら「お礼、言えなかったですねえ」とその背を見送った。




2012/10/22
栄知さんよりリクエスト。
140文字にまったく収まりませんでしたん。





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