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最初に思ったのは「あ、木兎って背が高いんだな」って事で、何故かと言うとキスをする時に思い切り顔を上に向けたせいでちょっと痛くなったからだ。その次に感じたのは彼が自分と私の身長差を意外にきちんと理解している事、私が苦しそうにしているのが分かったらしくだんだん顔を下げてきてくれたから。
そして最終的に湧き出た感情は女の子としてははしたないと思われるかも知れないけど、このまま最後まで木兎に捧げたいという事だった。

木兎は以前に彼が言ったとおりこういった行為には慣れていないらしいけど、その代わり最大限の優しい気持ちがこもっているのは理解できた。私は腕を木兎の背中に回す事でそれに応える。いま初めて木兎を抱きしめたわけだが、とても分厚い。


「・・・っごめん!」
「え」


突然木兎が身体を離したので、立派な身体に感動していた私は拍子抜けした声が出た。木兎は慌てて上着を脱ぎ始めて、その脱いだものをくんくんかぎ始める。


「俺、臭くね?大丈夫?」


その仕草が私にとっては最高に心くすぐられるものだった。心配そうに私を見下ろすので首を横に振ると、安堵した様子で上着をぽとりと落とす。仕切り直しと言わんばかりに「じゃあ・・・」と緊張した面持ちで言われたので、私はまたもやむず痒くなってしまった。


「やっぱり女の子に慣れてないの」
「慣れねえよ、悪かったな」
「ううん、悪くない」


ほんとかよ、と木兎は唇を尖らせた。女性慣れしていないのがコンプレックスなのだろうか。でも、そういう男の人のほうが良い。それが木兎のいいところだ。


「そういうところも大好き」


だからもう一度木兎の身体を抱きしめたくて両腕をめいっぱい背中に回す。ぎゅうと力を入れると、彼の身体がいかに硬く鍛え上げられているのかが分かった。


「・・・は、お前、そういうの反則」
「だって好きなんだもん」
「だ・・・から、それ」


頭上から木兎のたじろぐ声が聞こえる。私の腕とか肩を掴んでそっと引き離そうとしているみたいだけど、先にキスをしてきたのはそっちだ。抱きしめようとしてきたのも、私をここまで燃え上がらせたのも。


「・・・・・・ね、木兎」


胸元からはくんくんと男の人らしいにおいがして来た。
この薄いシャツ1枚を隔てたところに木兎の身体がある。この服邪魔だな、と感じた私は無意識に木兎の背中を服ごとぐしゃりと掴んだ。そして、そのまま上に捲し上げていく。


「・・・ももこ・・・まさか・・・マジか?」
「・・・ん」


胸の中で頭だけこくりと頷くと、木兎は私の手首を掴んで止めた。


「ほんとにいいのか?」
「・・・うん。したい」
「・・・・・・」


木兎がどうしてここまでしっかり確認するのか分からなかった。が、彼は女性経験があまり無いと言っていた事や、そもそも私の感覚が他人とは違うのだという事を思い出す。
女側からこんな事をするなんて引かれるだろうし、「他の男もこうやって誘ってるんだ」と思われてしまったら?ただの遊び人だ。


「・・・木兎が嫌なら無理にとは言わない、けど・・・」
「それ男側の台詞だろ」
「だって私、ついこの間まで他の人と」
「そんなのは関係ない」


掴んでいた私の手をぐいと押し返されて、私はそのまま廊下の壁に背中をぶつけた。痛みは特に無かったけれど驚いたのは、木兎が熱を帯びた表情で私を見下ろしている事。


「嫌なわけ無いじゃんか、俺がどれほど待ってたか分かってるだろ」
「・・・・・・」


そして、熱い手のひらが私の頬と耳とを覆う。風邪でも引いているのかと思うほど熱く火照っていた。けれど熱いのは身体だけでなく、彼の瞳の奥も同じらしい。


「言っとくけどもう我慢できねえから」


そう言うと私の返事を待つことなく唇が降ってきたので、同じく我慢できなかった私も受け入れた。舌を引っこ抜かれそうなほど吸われたり、かと思えばとても優しく唇を甘噛みされたり。その全部が気持ちよくて脳がとろとろになってしまう。
きっと冷静な目で見れば木兎にキスのテクニックがあるとかそういう訳では無いのに、キスの相手が木兎光太郎であるという事実そのものが効果を何倍にもしているのだった。


「・・・へたくそとか思ってないだろうな」


その質問に首を横に振ると、木兎は何も言わずに私をひょいと抱き上げた。
突然無重力になったように身体が浮いたので「わっ」と叫んでしまったが、木兎は無言で部屋の中を歩き私をベッドの上に降ろす。ぎしっと軋むその音は自分のベッドのものなのに、一緒に木兎が乗ってきたせいでいつもと違う音に聞こえた。

ベッドに座り込みもう一度木兎の顔を見上げてもやはり身長差のせいで唇は遠い。早くしたい、と思いながら見つめていると木兎は私の後頭部に手を添えながら口付けてきてそのまま仰向けに倒された。
キスの合間に木兎が息を呑むのが聞こえ、彼の胸に手を当ててみると心臓がとても大きく波打っているのを感じた。緊張してるんだ、ものすごく。


「ね、木兎」
「・・・なに?」
「好きなようにしていいよ」


緊張しなくていいよ、という意味で伝えた言葉は別の意味で伝わったみたいで、木兎はさっきよりも更に顔を赤くした。
かわいくて愛おしい、わざとらしく咳き込んでから私の身体を触ってくるのも、服が破れたり伸びたりしないように注意深く捲りあげてくるのも。でも、そんなぎこちない動きだって私には充分な快楽をもたらしてくれ、溢れんばかりの気持ちがこみ上げてくる。


「・・・好き」
「ん。」
「木兎」
「ん?」
「すき」
「・・・わーってる」


吐き捨てるような返事だったのは、木兎がもう男性としての我慢の限界を迎えているせいかもしれない。

ゆっくり私の下着に手をかけてきたので、私は彼の手に自分の手を添えた。そのままずるりと下におろして脚を抜き、今度は木兎の下半身へと手を伸ばす。下着越しにそこに触れると木兎はぴくりと身体を震わせた。


「わり、待って」


頼むから触らないでくれ、と眉を引き寄せながら彼は言う。苦しささえ感じているような表情の歪みは普段の木兎から想像できないほど色香を帯びていた。

木兎は自分で下着を脱いでゆき、あまり見られたくないであろう挿入前の作業を始めた。いつもは寝転んだまま天井を見ているこの時間なのに、どうしても全部見たくなってしまうのでこっそり眺めてしまった。そして準備が整った時に目が合い「見んな」と恥ずかしそうに顔の前で手を振られる。世の中にこんなにかわいい男の人が居るなんて夢にも思わなかった。

ごくりともう一度唾を飲み込むのが聞こえ、木兎の喉仏が揺れる。そして、ふうと息を吐いてゆっくり・ゆっくりと入れてくる。少し進むごとに木兎は何度か呼吸を繰り返し、やがて根元まで入った時には長い深呼吸をした。


「・・・や・・・ば、い」


ぽとり、と木兎の額から汗が落ちてくる。よく見ればすごい汗をかいているので指ですくってあげると彼は「いい」と顔を振った。


「木兎、気持ちいい?」
「・・・きもち・・・やべえ」
「動いていいよ」
「へ、余裕だなコノヤロー」


木兎は苦しさの中にも笑みを浮かべ、挿入したままじっとしていた腰を動かし始めた。
難なく出し入れが繰り返されるのは私がぐしょぐしょになっているせい、だと思う。そうでなければこんなに動けるはずは無い。入ってきた木兎のものはさっき見ただけでもとても大きかったし、感じたことの無い圧迫感で痛みさえ感じたからだ。


「ッ、あ・・・ぁ、やっ」
「・・・ももこ、気持ちいい・・・か?」
「う、んっ、きもち・・・い」


でも入ってしまえば痛みは吹き飛んで、摩擦による刺激で気持ちよさしか感じない。気持ちいいよと答えると木兎は先程とは別の意味で長〜い息を吐き、へにゃりと口元が緩んでいた。


「よかったあ」
「・・・何が?」
「だって多分・・・俺のほうがそういう経験少ねえし、自信とか無いわけで」


だから私を充分に満足させることが出来ているのか不安がっていたらしい、こんな贅沢な事があるだろうか。木兎には悪いけど私は嬉しくて嬉しくて泣きそうだった。


「そんな心配いらないよ」
「そうか?」
「相手が木兎なだけで充分」


ぽかんとした表情で私を見下ろす木兎に両手を伸ばし、首の後ろで手を組んで顔を近づけるように引っ張ってゆく。木兎は私の力に従ってゆっくり顔を落としてきて、ちゅっと口付けると何か言いたげに口をもごもごさせた。


「・・・・・・あのさ。そういうのホント駄目なやつだぞ、反則だから」
「え・・・?」


今度は私がぽかんとする番だったけど、そんな気の抜けた表情はすぐに崩れた。いきなり木兎が動き始めて、形の良い彼のものが私の中を抉ってきたのだから。


「ひゃ、ぁ!?ぼ・・・木兎、」
「前も言ったけどっ、木兎ってのは苗字だからな」
「んっ・・・う、あ」


木兎の目は私を求めるような、責めているような力強い光が宿っていて、おかげで私はぞくぞくと背筋に電流が走る。彼ってこんな目をする事があるんだ、柔らかくて優しいだけじゃなく。名前を呼べよと求める時にこんな言い方をするんだ。


「・・・光太郎」
「そう」


一度私が名前を呼ぶと返事はしたものの満足していない。激しい動きや息遣いとともに「もっと、」と訴えてくる木兎の顔はどんどん余裕を失っていく。私もそれにつられて息が上がり、突き刺さる木兎のものに声をあげる合間で必死に彼の名を呼んだ。
木兎光太郎、19歳、お節介でうるさい男改め私の彼氏。名前を呼ぶごとに不思議と光が宿っていくような、眩しい男の人である。

朗々と光に集え