瀬見英太


世の中には二種類の人間が存在すると聞いたことがあるが、何十億という人類をふたつに分けるなんて絶対に無理だろう。

だから私は次のように分ける。努力して報われる者、努力しても報われない者、努力をしない上に報われない者。そして努力しなくても恵まれている者。


「すみれは何でそんなにスタイルいいの…」


隣の机と私の机をくっつけての昼ごはん。今日はお母さんが作ってくれたお弁当で、量は多くもなく少なくもなく平均的な大きさだ。それを食べている私を見ながら友達のユリコはため息をついた。


「何でって言われてもなぁ」
「何かしてる?運動とか」
「運動嫌いだし…」
「走るのも水泳も得意なくせに」
「うーん…」


項垂れるユリコを見て私は思うのだった。そんなに体型を気にするのなら、主食をお菓子にするのはやめたほうが良い。

お昼ご飯はパンひとつだけ、その理由は「胃袋にお菓子を入れる隙間を残しておきたいから」と言うのだから聞いて呆れる。

他人の食生活に口出しするつもりは無いけど、こうも矛盾したことばかり言われると。


「すみれの身体が欲しい」
「言い方がオッサンだよ」
「脳みそも欲しい」


ユリコがこのように言う理由はよくよく分かっていた。

私はまず、太っていない。偶然この身体の出るところは出て、引っ込むところは引っ込んでおり、髪の毛はさらさらで綺麗な二重。爪の形も綺麗だし肌も白い。女の子が欲しがるものほとんど全てを持っている。正直、親に感謝だ。

この時点で私は少なくとも容姿において、「努力しなくても恵まれている者」の分類に属している。


更に私は優秀な生徒が集まる白鳥沢学園の中でも好成績を持っていて、東京の有名な大学を受ける予定。だから私の脳みそも欲しい、らしい。


「脳みそ欲しいって、何だそりゃ」


近くでぷっと吹き出したのは同じクラスの瀬見英太で、ちょうど他のクラスから戻ってきたところだった様子。

こっそりと、私は彼をすでに四種類のうちのひとつに分類している。


「すみれみたいな頭が欲しいって話!瀬見だって脳みそ無いくせに」
「うるせえわ」
「まあさ、アンタは部活が優秀だから良いんだろうけどおぉ」


ユリコは机に突っ伏した。
かと思うと勢いよく起き上がり、「英語の教科書忘れたんだった!誰かに借りてくる!」と、昼ごはんのためにくっつけた机を戻すのも忘れ一目散に教室から出ていった。


「忙しねえ奴」
「だね。戻しとく」


そう言って、私はくっつけていた隣の席つまり瀬見英太の席を元の場所に戻した。

毎日私とユリコが一つの机に雑誌やらお菓子やらお弁当を広げているのを見かねた瀬見は、いつからか他のクラスで昼食をとるようになったのだ。


「なんか悪いね。ありがとね」
「んー、何が?」


言いながら彼は、次の授業で必要な英語の教科書を机の中から探していた。


瀬見英太、狭き門であるバレーボールの推薦入学を果たした男。と言うことは身長も高く他のスポーツもそつなくこなす、おまけに顔も悪くないと言うモテポイントを一通り押さえている男。


私だけは知っている。人間を四つのグループに振り分けた時、彼は私と同じグループに入るのだと言うことを。


「あ。やべえ宿題のプリント真っ白だわ」
「ざんねーん」
「くっそ…あと……10分か。よっしゃ」


瀬見はぺろりと唇を舐めると名前欄に名前を書き、プリントを大急ぎで解き始めた。

この時私は「私のを見せようか?」という提案をする事もできたし、大半はそうするのかも知れない。見目麗しいこの人に、少しでも気に入られたいと考えるなら。

でもたとえ私がプリントを写さないかと聞いてみたところで瀬見の答えは決まっている。どうして私にそれが分かるのかと言うと、彼と私は同じ部類だから。

瀬見は私がこんな事考えてるなんて思ってもないんだろうな、と思うと顔がゆるむ。


「白石よー」
「…んっ?」


一人でにやついていたので、突然瀬見に呼ばれて声が裏返った。


「余計なお世話だったら悪いけどさ」
「うん?」
「友達には厳しくすんのも大切だと思う」


彼はプリントから目を離さずに続けた。反対に私は瀬見に目を奪われた。


「…厳しくっていうのは?」
「分かんないか?」
「……どうかな…」
「そっか。分かってると思ってたけどな…白石は俺と似てるから」


瀬見に釘付けになったまま息が止まる。私たちが似ている、同じである事を考えては嬉しさに浸っていたんだもの。


「無視か」
「あ。ごめん」
「いいけどー。つか全然分かんね!諦めて怒られるわ」


ペンを置くと、瀬見は大きく伸びをした。
思いっきり腕を頭上に伸ばしたせいで、制服のシャツをインしていたのがズボンから出てしまった。それをわざわざ元に戻すのが瀬見英太という男。


「勉強って努力しなきゃ出来ないよな?」


シャツの裾をズボンに入れて、ベルトをしめ直しながら瀬見は言う。その時ちょっとだけ彼の下着が覗いたので、目を逸らしてから返答を考えた。


「そだね」
「じゃあ部活は努力しなくても出来ると思うか、思わないか」


相変わらず私のほうは見ずにノートや英和辞書を机の上に用意しながらだけど、その質問の裏に別の意図がある事をなんとなく感じた。
何故なんとなくでもそれを感じ取ることが出来たのか、それは先の理由と同じ。


「………思わないよ」
「だよな。そうだ」
「何でそんなこと聞くの?」
「確認したかったから」


すると、恐らく初めてこの会話の中で彼の目が私を捉えた。それと同時に私の思考は停止する。でもどうせ思考回路が機能し続けたところで、私の考えていることなんて分かってしまうのだろうと思った。


「確認って?」
「白石と俺、たぶん似てるなって」


私は世界中の人間を四つのグループに分類する。努力して報われる者、努力しても報われない者、努力をしない上に報われない者。そして努力しなくても恵まれている者。


彼の外見や私の外見は傍目からすると、親に恵まれた素晴らしい才能であり個性だ。でも似ているのはそこじゃない。


「俺達ちゃんと努力してるよ。な」


私たちが属するのは、努力して報われる者のグループなのだと考える。それを周りにわざわざ言わないところも、ずる賢い先回りをしないところも、全てにおいて彼と私は酷似していた。私だけがそれを分かっていると思っていたのに。

「瀬見と私って似てる」とこっそり考えては、気持ちに花が咲いていたのに。


「似てないよ…」
「そう言うと思った」


どうして彼が私の次の台詞を予測できていたのか?その理由も、ほかの誰にも分からないんだろうなと思うとやっぱり嬉しくて。唇をかんで、笑顔になってしまうのを堪えるのだった。

誰にも分からなくていいの

惇様より、顔も頭も性格もいけど本当は黒い夢主ちゃんが瀬見に恋してる・と言うリクエストでした。黒いっていうか「人類を四つに分ける」とかいう変な思想の持ち主になってすみません…分かりにくくなっていたらゴメンなさい!ありがとうございました♪