1st Monday県内でもトップを争う進学校、白鳥沢学園。
中学時代は成績優秀、みんなから「白鳥沢を受けるんだよね?」と言われ、先生には「きっと白鳥沢がいい」と言われ、親からも「白鳥沢に行ってくれたらご近所に自慢できる」と言われていた。
実際そうなると、自分もだんだん白鳥沢へ行きたくなってきた。そして無事に合格し、入学を果たす事ができた。
◇
「………補習…」
中間試験後、好成績者のみの順位が廊下に張り出される。私の名前はそこに無かった。
さらには平均点を著しく下回っており、今日から1週間の放課後の補習を言い渡されたのだ。
こんな事、自分の経験の中ではあり得ない。中学校の時は勉強しなくてもそこそこの点数だった私なのに、周りのレベルが高すぎた。
とは言えせっかく入学した白鳥沢。ここで終わるわけには行かないので前向きに補習に取り組む事に。
「……ぐぅ、………んん」
せっかく私がやる気を出して補習に出席にしているのに、隣の人がずーっと寝てる。いびきがうるさい。
あいにくプリントを解く自習形式の補習だったようで先生は今は居ない。
「……すぅ…」
とても気持ちよさそうだ。
同級生の私から見ても育ち盛り、むしろ育ちまくりの男の子。
昔からよく寝てるから大きくなったのかな?とちらちら見ていると、先生が戻ってくるのが見えた。
あの先生は私のクラスの数学を担当しており、前にウトウトしていた生徒にすごい勢いで怒っていた。このままだとやばい。
「ちょっと、あの、起きて」
広い肩をゆさゆさ揺らしてもなかなか起きない。
この人の身体、重いし、かたい。
ああ先生が入ってきてしまう…と、廊下で誰かと話し始めたようだ。
「もしもし、起きて」
「……んん〜」
「先生戻ってくるよっ、ねえ」
「ふぇっ」
ガバッ!とその人が上半身を起こすと同時に、先生が戸を開けて入ってきた。間一髪。
真横の席に向かって大きな声で怒鳴られるのはたまらないので、彼も私も救われて一石二鳥。
「じゃあ後ろから回収ー」
その合図で後ろの席からプリントを集め、翌日の補習で採点されて配られる事になった。
隣の子は慌てて自分のプリントを見ると、どうやら真っ白だったらしい。長い手をひゅっと挙げて言った。
「すみません!寝てました!やってません!」
「!!?」
せっかく起こしたのに何でカミングアウトするんだよ。
「五色ィ!お前はバレー部だからっておサボりが過ぎる!家でやって来て明日の朝イチ!!職員室まで持ってこい」
「はいッ」
先生はそのまま教室を出て、補習はお開きとなった。この人バレー部?だから背が高いのか、よくお育ちになっていらっしゃる。
それにしても幾分か素直すぎるのではないか。
「…何で寝てましたって言うの」
「へっ?」
「起こしてあげたのに…」
「ぇあ、ごめん…」
「いいけど」
県内からたくさんの生徒が集まる大きな進学校だ。素直すぎる人、天邪鬼すぎる人が居るのも不思議ではない。
「ふあぁー…ッあ!?やべっ部活部活」
あくびもそこそこに、その子は勢いよく立ち上がるとさっさと教室を飛び出していった。
そういえば白鳥沢はバレー部が強いんだったかなあ。強豪校のバレー部で鬼のような先輩たちに揉まれるのか。素直すぎるところが吉と出るか凶とでるか。
私も帰って復習しよう、と席を立ち上がると隣の机に何かが置き去りになっているのを発見した。
…さっきのプリント、そのまま置きっぱなしなんですけど。
少し悩んだけど、「明日の朝イチ!」と怒っていた先生の顔を思い出し、ため息まじりにそのプリントを手にとって体育館へと向かった。
◇
白鳥沢は進学校として有名だけれどたくさんの運動部が活躍している。
よってグラウンドも体育館もいくつかあり、バレー部が練習している体育館を探すのは苦労した。
「…そういえば名前知らないや」
彼のプリントは名前すら書かれておらず、ほんとうに真っさらの状態。
体育館内はたくさんの部員で溢れており、人と人が入り乱れて練習を行っている。どうしよう。
「もしもし?」
「はい…わっ!」
背後から突然声をかけられて振り返ると、どこからどう突っ込めばいいのか分からない人が立っていた。デカっ!赤っ!誰っ!
「ちょっとちょっと逃げないでヨ〜」
「どどどどどなたですか!」
「俺の名前は覚クン。きみは?」
「白石…です」
「フーン?知らなーい」
「は、はあ」
そりゃ私だってあなたの事知らないですから、あなたが私の事を知らないのは当然です。
少し絡みにくそうなので、もう少し普通っぽい人と話をしたいんだけど。と思っていたら比較的普通っぽい男の人がやって来た。
「天童!便所長えよ」
「チガウのチガウの。便所は一瞬で終わったの。それよりこれ誰か分かる?」
「これって言うな」
「す、すみません!人を探してまして」
話が脱線しないうちに本題を、という事で、赤い人を制する男の人に聞いてみる事にした。
「人?誰?」
「あのう…1年で…バレー部で…」
「1年は100人くらい居るヨ〜?」
「嘘つくな。そんなに居ねえだろ」
「背が…高くて」
「俺たちより?」
「うっ」
正直、ほとんど座ってたからあまり分からない。顔もそんなに見てないし、印象的なのは前髪くらい。
諦めようかと思っていたその時、赤い人がまた声を張り上げた。
「あー!やっと来た〜工〜」
そちらを向くと、…彼だ!あの前髪、ちょっと地黒な感じ、背も高いし恐らく彼。
「スミマセン補習受けてました…!」
いや寝てたじゃん。
「せめて補習は回避してヨー」
「すみませ…アレッ?」
私の存在に気づいたようで、目を丸くして見下ろされた。鞄にしまったプリントを取り出して広げてみせる。
「これ忘れてたよ」
「………?」
その人はプリントを受け取ってまじまじと見る。
もしかして存在自体もう忘れてしまったのかなと心配になっていたところ、「ああ!」と大声をあげた。
「これ!明日提出しなきゃいけないやつ!」
「机に置きっ放しになってたから…」
「ありがとー!」
長い体を折り曲げて、深くお辞儀をされたもんだからこっちが萎縮してしまう。
朝一番に提出しなければ鬼のように怒られるんだろうし、その怒られるさまを同じ補習の教室内で見るのは嫌だし、そんなに礼を言われる事ではない。
「じゃあ、これで…」
「白石さんホントありがとね!」
「……?うん」
彼はもう一度大声でお礼を言うと、先輩たちに背中を叩かれながら体育館へと入っていった。
その姿が見えなくなったときに私はふと気づいた。…どうして私の名前、知ってるんだ?
憂鬱なMondayの寝息