06


さて月曜日。ここで問題に直面した。

なんと電車に乗った時、白石さんの姿が見当たらないのだ。いつも一番後ろの車両に乗っているんだけどまさか別の車両に居るのだろうか?
車両を移動し隅から隅まで探してみたものの、その姿を見つける事はできなかった。


「……賢二郎。いつにも増してテンション低いんですケド」


天童さんはいち早く俺の様子に気付いて、心配しながらも興味深さを隠せずに寄ってきた。
試合中はこの上なく心強いのに、それ以外の時の厄介な事と言ったら。


「……低い…ですかね」
「死にそうジャン」
「何でもないです本当に」
「ほーん??ならイイけど〜」


言葉とは裏腹に、全然良さそうではない天童さんは今日とことん俺の様子を気にしてくるに違いない。厄介だ、とても。

そんな事より今朝の電車にどうして彼女が居なかったのかが問題だ。もしかして電車に乗り遅れたとか、体調不良で休みか遅刻か…乗車前に怪我をしたとか?はたまた俺が乗る前にまた痴漢に遭って別の駅で降りていたとか。

…昨日の俺との会話で何か気にくわない事があって、避けられているとか。うう、心配になってきた。


「いや連絡して聞けよ」
「……んん」


太一に連絡しろしろと言われるのが鬱陶しくなっていたが、今日ばかりはこいつが正しい気がする。


「送る理由できたじゃん?今日どうしたの〜って軽く送れよ。もし俺が連絡無しに部活休んだらお前絶対メールか電話してくんだろ。それと同じ」


太一の言う事はもっともだった。もしも俺が彼の立場ならきっと同じ助言をするに違いない。
悔しいけれど今回ばかりは友人である太一の意見を尊重し、出会ってから2ヶ月目にして初めてメッセージを送ることに決めた。





財布の中に大切にしまっていたノートの切れ端。久しぶりに取り出してみると、そのきれいな文字に見惚れてしまった。
初めてこれを受け取った日から今日までの、俺の気持ちの変化が手に取るように分かる。


「ハイハイさっさとスマホ出して〜」
「…おう」


昼休み、いつものように太一のクラスまで出向いていた俺は太一の指示どおりスマホを取り出す。

送る前に改めて自分のメッセージアプリのプロフィール画像を確認。…問題ない。俺のプロフィール画像は、貰った日の夜に浮かれて撮影した自分のユニフォームだ。天童さんみたいに変な自画像なんかにしてなくて良かった。


「…何て送ろうか」
「だーかーら!今日はどうしたのって送れよ」
「名乗らなくても良いのかよ?」
「いちいちうるせーな!じゃあ名乗れ」
「お前怖い…」


太一の気迫に負けて、俺はとりあえず下記のとおり文字を打ち込んだ。


『白鳥沢の白布です。今朝はどうかなさいましたか』


「…どうかな?」
「よそよそしいな」
「チッ」
「オイ舌打ち聞こえてんぞ」
「はいはい」


『白鳥沢の白布です。今朝は見かけなかったけど、どうしたの』


添削の結果、この文章で送信した。
返答が待ち遠しすぎて昼ごはんが喉を通らない。…なんて事はなく、美味しくいただいたところで白石さんからの返事がきた。


「やべっ!来た」
「うおお」


『白石です!ごめんなさい。今日からテスト期間なの忘れてました』


「…これ、テスト期間は朝練無いって事かな」
「そうかも」


ひとまず、何か事件があったとか避けられていたとか、そういうわけでは無い事に安堵した。

しかし新たな問題が浮かんだ。白鳥沢もちょうど本日から期末テストの範囲が公開される。インターハイ出場を決めた俺たちは朝練のみ行われるが、午後の部活は体育館が閉鎖され出来なくなっている。

つまり俺の朝の電車時間は変わらない。


「…て事はテストが終わるまで、会えない」
「何てこった」


俺たちは頭をかかえた。
白鳥沢も今日から午後の部活が無い。この悲しみを分かち合うため、俺と太一は放課後に勉強会を開く事にした。





放課後、食堂に集まった俺たちは適当に飲み物を買ってひとつの机を陣取った。
主に勉強会と言っても、毎回俺が復習がてら太一に教える事が多いのでおそらく今回もそんな感じだ。
でも今回は勉強だけでは済まない可能性あり。


「あれからすみれちゃんに何て返した?」
「…え、返してない」
「おい。返せよ!」
「テスト期間なんだから連絡したら迷惑だろ」
「馬鹿か?テスト期間なの忘れててゴメンナサイって来てたんだろ?テスト頑張ってねーとか俺らもちょうど今日からーとかいくらでも返せるだろ!マジで馬鹿!恋愛偏差値マイナス100億!」


川西太一先生の恋愛偏差値がいくつなのかは知らないが、確かに太一の言う通り。

悔しい事に俺は、こと自分の恋愛に関しては初心者同然で上手に動くことが出来ない。教科書を開く前にまずはスマートフォンの画面を開いてみた。


「…川西先生。どう返すのがベターっすか」
「まずは自分で考えるのが大切ですよ白布くん」
「チッ」
「聞こえてっから!」


『こっちも今日からテスト期間。お互い頑張りましょう』


この画面を太一に見せると、読み終えた後で大きなため息をつかれた。そんなに大げさにしなくてもいいのに。


「…添削頼む」
「添削っつーか…逆に賢二郎がこのメッセージ受け取ったとするよ?お前ならコレに何て返すの?」
「んー、返さない」
「それだよ!返せねえんだよ!お互い頑張りましょうって!そこで完結してんの。もう少し話が広がるように送れないのかね?貸せ」


頭をボリボリかきながら、太一は俺のスマホを引ったくり目をぎらぎらさせながら文章を打ち込んだ。
こいつ、どうしてこんなに的確なんだよ。彼女居たっけ?


『白鳥沢も今日からテスト期間になりました。数学なら得意だから困ったら声かけてください。テスト頑張ろうね』


「これならとりあえず、もう一回何かしらの返信は来るハズ」
「天才かよ」
「マジでキレキレだわ俺。略してマジギレ」
「それ意味違う」


試合中もキレキレで居てくれたら俺はすごく助かるのに、と思いつつも太一に感謝しながら送信ボタンを押した。

そこで本来の目的である勉強に集中するため、気が散らないようにスマホを鞄に仕舞う。太一にはいつもより丁寧に教えてやる事にした。


06.第三者の意見を参考に