02




春。翔陽と私は受験戦争に打ち勝って、晴れて烏野高校の生徒になった。なんの因果か翔陽とはクラスも同じ。知らない人が多いので、少しホッとした。


「じゃあ俺行くから!」
「うん、後で行く!」


翔陽は一目散にバレー部の練習が行われている体育館へ向かった。
私も、仲良くなれた子たちと少し話してから体育館へ行くことにした。友達関係も大事にしなくては。


「白石さん、あの子と同じ中学?」
「うん」
「へえー…何か、元気だね」


またここに、眩しいほどに明るい翔陽に惹かれている女の子が一人、現れたかもしれない。あれで実は隠れファンが多いのだ。





30分ほど経ってから、私も体育館へ向かった。
部長とか、どんな人だろ?高校生の男の人って大人なんだろうなあとソワソワしながら到着すると、体育館の前に人影が。


「…翔陽?」
「あっ!すみれ!やべえんだよおおぉぉ…」
「…何が……あッ!!!」


そこに居たのは、忘れもしない北川第一中学校の王様だった。
素晴らしいプレーに対して「凄い」と言っただけなのに、返された台詞は「そんな奴に凄いとか言われても、嬉しくねえから。」ぐぬぬぬ。


「影山飛雄!くん!」
「……何なんだよオマエラ」
「そうなんだよコイツも烏野だったんだよ…ッつーか!ヤベェのはそっちじゃなくて!」


翔陽の話を要約すると、影山くん(同学年なんだから、くん呼びで良いだろう)とあまりに対立する翔陽と、翔陽をないがしろにする影山くん共に主将に締め出されてしまったらしい。主将の前で派手に喧嘩をしたのだという。そして、教頭先生はカツラだった(分かっていた。)

でも私には、そっちよりコッチのほうが大変なことだった。


「影山くんも烏野だったんだ」
「何で名前知ってんだよ」
「王様って呼ばれて、有名だったから…」
「……」


私はどうしても、あの大きくて美しいバレー少年に再び会うために烏野高校にやってきた(翔陽についてきた)のだ。
そして今、影山飛雄が目の前にいる。烏野高校のバレー部に入る。同じ部活で、近くで好きなだけ彼のプレーが見れる!
…と、思っていたのに。


「…あっそう。行くぞヘタクソ」
「えッ」


影山くんは私のことを見もせずに、さっさと言ってしまった。また、機嫌を損ねてしまったのか?


「お前、あいつに何かしたの?」
「……してない…と思う」


何も覚えは無い。そもそもあの試合の日、なぜ彼にあんな態度を取られたのかも分からない。
それでも私は、影山くんに心から惹かれてしまったのだ。ボールを操る美しい姿に。…それなのにどうしてこんな扱いなのだろう?

翔陽と影山くんの背中が見えなくなると、体育館が開いた。


「あれ、一年生?」
「はひ!」


中から現れたのはすごく優しそうな先輩だった。にっこり笑って近づいて来る。


「バレー部希望なの?」
「はい」
「女バレはあっちだよん」
「あ、私、マネージャー志望で…」


するとその先輩は勢いよく私の肩をつかみ、目をきらきらと輝かせた。


「マジでッ!?大地!大変!」


ダイチタイヘン?なにかの呪文みたいな事を体育館の中に向かって叫んだ。そして私の肩をがっしりつかんでいた事に気付いたらしくぺこぺこと頭を下げた。

そのうち、ほかの先輩と思われる何名かが姿を現した。


「どしたの」
「この子マネージャー志望だって」
「え!マネージャー!これで女マネが二人…やべえ…練習に精が出るっス」
「居なくても精出せよ」


3名の中で一番大きな黒髪の先輩が、一歩前に出た。おお、大きい。影山くんとは別の意味で。


「俺、澤村大地。一応主将です」
「白石すみれです!」
「自分からマネージャー名乗り出てくれるなんて嬉しいよ。中学はどこ?」
「雪ヶ丘中です」
「雪ヶ丘…日向と一緒か」
「はい!あの、翔陽はバレー禁止ですか…?」


私が聞くと、先輩たちは笑い出した。どうやらそこまでの深刻な問題では無いらしい。澤村先輩はさわやかに笑いながら私を体育館へと案内してくれた。


「禁止なんかしないよ。白石さんは日向の彼女かなんか?」
「あはは、よく間違われるけど違います」
「あり、違うんだ」
「1年のクセに彼女持ちなんてロクな奴居ないッスからね」


私と翔陽は幼馴染で、互いの家を行き来したり、テストの点を競ったり、普通の友達として育ってきた(テストについては、中学の途中からは翔陽の成績が伸びず、競うほどでもなかった)

家も近いのでバレーが無い日は登下校も一緒だったりすることが多く、よく恋人同士だと勘違いされたものだ。
でも私にだって中学の間好きな人が出来たり、翔陽も隣のクラスの子にちょっと片思いしていた時期があった。


「影山くんと翔陽は、そんなに派手に喧嘩してました?」
「あ、影山の事も知ってるのか」
「はい。私、影山くんに会いたくて烏野に来ました」
「!?」
「あ…すみません。言い方が悪かったです…」


これではまるで私が影山くんの追っかけみたいだ。実際、ちょっとストーカーっぽい理由かも知れないけど自分としては純粋な気持ちなのだから仕方ない。

あの試合のこと、影山くんのプレーに感化されたこと、また会いたいと思ったこと、そして翔陽について烏野に入学した事をざっと説明した。


「なるほどね。確かに目を見張るよね、影山は」
「上手いからな」
「…翔陽も、上手くはないけどずっと頑張ってました。だから、翔陽も影山くんも気持ちよく部活できるように私、頑張りますんで!」
「おおー、いいねいいね」


かくして私は翔陽よりも一足先に、烏野高校バレー部に歓迎されたのだった。

02.一足先にメンバー入り