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好きな人に告白。

電話で告白、呼び出して告白、メールで告白、手紙で告白、いろんなパターンがあるだろう。
理想としては直接面と向かって気持ちを伝えるシチュエーション。そのほうが振られるにしてもスッキリするだろうから。


しかし、まさか勢い余って自分の気持ちを告白するなんてヘマをするはずは無いと思っていた。


「白石は俺の事好きなのか?」


そして、その相手に「俺の事好きなのか?」などという超ド級のストレートを放たれるとは思ってもみなかった。


「…ごめん、いま私…」
「ごめんじゃない」
「ごめん!」
「だから、ごめんじゃな…」
「いまの嘘だから!」
「!?」


私は勢いよく立ち上がった。
おかげで椅子がガタガタと揺れ、後ろの席の椅子にぶつかってしまった。

幸い後ろには誰も座っていなかったのでそのまま鞄をつかんで、一刻も早くこの現場から逃げなければと本能が働く。


「オイ。」


…が、そんな私のか弱い本能など身長180センチの運動部男子の腕一本で制止する事が出来る。
影山くんが眉間にしわを寄せて私の腕を握り、絶対に逃がすまいと力を込めていた。


「…俺の事を好きなのが嘘なら嘘でいい。けど、それも嘘だったらさすがに怒る」
「………、う、」


嘘じゃない。大好きだ。

影山くんの事は恐らく初めて目にしたあの日から特別な存在であった。
あの時どのように思われていたとしても、心底不快に思われていたとのだとしても、私が進学する高校を選ぶ基準となったのは影山くんだ。

私の腕を掴むその手の力が緩まったので、私はそのまま静かに席に着いた。


「…ごめんなさい。」
「それ以外の言葉が聞きたい」
「………」
「…何だよ。ほんとに嘘だったとか?」
「嘘じゃない!」


こんなの伝えるべき事では無いと思う。
私はバレー部のマネージャーで、彼は恐らくこれからの試合でもスタメンで烏野高校を引っ張っていく存在だ。先輩たちの影山くんに対する態度や言葉で分かる。

その彼に一人のマネージャーが個人的な気持ちを抱く、まあそこまでは仕方が無いだろう、でもそれを伝える事でチームが乱れたら?
真剣にバレーだけを求めてここに来た翔陽はどう思うのか?ほかの部員は?


「嘘じゃない、好き。好きです、多分ずっと前から」


でも、嘘だと思われるよりはずっと良い。悲しいやら情けないやらで涙が出てきて、そのぶんの水分を補うかのように私は溶けた氷の水をずずずと吸い上げた。


「つまり白石は、俺が好き」
「…復唱はよして下さい」
「いや、ちょっと俺も動揺して…」


影山くんが眉間に拳を当てて、深く考え込んでいた。

今後の部活に差し支えないようにうまく断る方法を探してるんだ。辛い。消えたい。なんで考え無しに「好き」なんて台詞が出てきたんだろう。


「…もうこの話やめよ!」
「は?嫌だ」
「無かった事にしてバレーに集中!」
「俺が同じ気持ちだって言っても無かった事にすんのか?」
「え、」


一瞬、涙が止まった。

というか、一気に引っ込んだような気がした。

彼が何を言ったのか理解するのに全ての神経を尖らせたせいで、「涙を流す」という脳からの指令が断たれたらしい。


「今、なんて」


何かが喉に引っかかり、すこし枯れた声で聞いた。影山くんは眉間に当てた拳を下ろし、代わりに頭をぽりぽりかいている。

と、その手も少しだけ離して、二人の間でしか聞こえないような声で一言。


「俺も、白石が好きなんですけど。」


それは幻聴かも知れない。

こんな夢のような事が起こり得るはず無い。落ち着かなければと、ひとまず私はグラスを持って立ち上がり普段は飲めない炭酸のコーラを注いだ。

席に戻り、ふうと息をついて、コーラを一気飲み。

夢ならば飲み干せる。
現実なら吐く。


「……んッんぶぅ、おえ」
「うお!? ちょ、何して」
「…夢じゃないの…?」
「はァ!?」
「影山くん…私のこと…好きなの?」
「ば…!復唱すんじゃねー!!」


自分だって復唱したじゃん!と言い返せるほど私の脳みそは働いていなかった。

それが現実なのだと分かった瞬間、今度は「涙を流す」という指令がリスタートしてしまったのだ。


「………ッ、う、嘘だ」
「な…泣くか!?今ここで泣くかフツー!嘘じゃねえし!俺が泣かせたみたいだろうがッ」
「影山ぐんが泣がぜでるんでずうぅぅ」
「お…俺か?俺のせいか?なら謝るけど!とにかく泣かれたら俺、ちょっ」


なかなか涙がおさまらない。

嬉し泣きでここまで泣いたのは人生で初めてかもしれない。
影山くんが私の涙を止めるために、テーブルに置いてあるペーパーナプキンをわしゃわしゃと取り出して「ほら!」と突き出してくる。

…この人、私のことが好きなの?

信じられない。夢だ。

私はもう一度コーラを飲んだ。


17.嘘か真か夢かコーラか