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久しぶりに感じた部活が終わり、いつも以上に張り切って動いたせいかすっかり疲れてしまった。

木兎さんも俺が部活に参加している事を相当喜んでいるようで、照れくさいやら鬱陶しいやらとても不思議な気分だ。


「赤葦、えらい気合い入ってるけど顔面ヤバイから」


木葉さんが笑い半分、心配半分で言った。

自分でもこの怪我はもう笑うしかない領域である。でも腕を守ったこの心意気だけは大したもんだと自画自賛。

帰ってからこの巨大な絆創膏を剥がすのが少し恐ろしいが、その前に俺には大切な用事がある。


「じゃあお先です」
「おう!明日は顔治してこいよ!」
「無理です」


木兎さんの気遣いは有難いが、そんなに早く治るわけが無いので適当に返して部室を出た。





そして、早速ポケットからスマホを取り出す。今すぐにでも白石さんに連絡を取りたいからだ。

と言うより、今すぐにでも俺のひどい所業について詫びたいのだ。そして練習試合に再び誘いたい。


「赤葦くん」


…そう思ってLINEを開いた瞬間だったのに、目の前には会いたくてたまらない人物が立っていた。


「…え…あれ?何してるの」
「えっと、待ってた…て言うかちょっと用事があったから、ついでに…」
「用事って」
「帰りながら話して良い?」


つまり一緒に帰ろう、という事。
もちろん頷いて、バレー部の連中が部室から出てこないうちにと歩き始めた。


「赤葦くん、」


駅まで歩きながら白石さんが話を始めようとしたので、言葉を遮るのは悪いけれど手でそれを制した。


「ごめん。先に話したい事がある」
「えっ?」
「俺、今日…いや昨日も。ひどい態度取って、ひどい事言った。ごめん」
「……」
「ほんとにごめん」


謝っても謝り切れないだろうと思うけれど、謝罪の言葉を重ねるほか無い。

反応を見せない白石さんの様子を伺おうと横を見ると、姿が無い。
振り返ると数歩後方で立ち止まっていた。


「…白石さ…」
「ごめん」
「な、何が?」
「私も今朝…あの…英語の時、怒ってごめんなさい」


英語の授業で、確かに俺たち二人は少しの言い合いをした。でもその原因を作ったのは俺であって彼女ではない。


「あれは俺のせいだよ」
「ちが、私…焦ってたんだと思う。緊張かも、とにかく私が…」


白石さんの肩が震え始めた。


「…落ち着いて、ゆっくりでいいから」
「赤葦くんが元気無さそうで、何か素っ気なくて、私が何かしたのかなって」


落ち着いて、なんて言える立場では無くなった。落ち着け、俺。

白石さんはやっぱり俺の態度がおかしい事に気づいていて、その原因は自分の失態か何かだと思っていたのだ。
それなのに自分のイライラを本人にぶつけて怒らせた俺、最低じゃないか。


「…ごめんね。俺が悪い」
「違うよ、私何かしたんだよね?」
「違わない。俺…あの、聞いて」
「………なに?」


俺、白石さんの事が好きなんだ。

などと道ばたで言うことは出来ず、言葉の続きを待っている白石さんの前で少しうろたえる。


「練習試合…今週末も、あるんだけど」
「うん…?」
「観に来てほしい」
「え」
「俺の試合観て。木兎さんでもいい。だからそれで元気になって、そんな顔しないで欲しい」
「………赤葦くん」
「俺は白石さんの笑った顔が好き」


仲直りが出来た帰り道。
俺はまたずるい言葉を使ってしまったが、この練習試合を観に来てくれるならその後気持ちを伝えようと決心した。

その時振られるとしても、この短い期間でこんなに強い二人の人間を目の当たりにしてしまったらもう逃げる事など出来ない。


「…ありがとう。観に行く」
「本当に?」
「うん。でね、その後時間あったらちょっと話したい事が…」


話したい事。
白石さんからの話が一体何なのか気になって仕方がないけれども、とにかく練習試合の後に時間を貰えるのは確実のようだ。


「うん。ちょうど俺も話したい事ある」
「えっ、何?気になる」
「俺も白石さんの話気になるんだけど…」
「あーそうか!じゃあ日曜だね」


まるで花が咲くように笑う彼女は、おそらく日曜日まで俺の頭の中を占領し続ける。とても心地のいい支配。


それと同時に、日曜日までのあと4日ほどで白石さんへの気持ちがこれ以上増してしまう事への恐怖さえ感じる。


たぶん振られるんだろう。
でも俺だって、包み隠さず自分の気持ちをぶつけてやろうじゃないか。サッカー部には負けていられない。


同じ帰りの電車に乗り、途中で白石さんが降りるとき、別れ際にちらりとこちらを振り返った。

そして人さし指で自分自身の右頬をちょんと突いて優しく笑い、言ったのだ。


「顔、お大事に」


帰宅ラッシュの時間帯、この車両のこの場所にだけスポットライトが当たり、天使が舞い降りたかのようだった。





「…何か赤葦がスゴイ。」


翌日の部活でも我ながら絶好調の出来だった。自分で言うのもおかしな話だけれど俺は木兎さんのようにプレーの浮き沈みは少なく安定している。

まあ、つい数日前には白石さんに好きな人がいるというショックで心ここに在らずだったのだが、それは別の話だ。


その俺が昨日、そして今日続けてキレキレの動きをしている。
浮き沈みどころではない。浮き浮きだ。


「お前…大怪我してそこまで動けるってすげーよ」
「まあ顔ですから…身体は元気なんで」


しかも大怪我と言うほどではなく、ちょっと派手に顔が傷ついただけ。骨折もないし皮がめくれてひりひりするだけだ。


「俺、顔にそんな傷ついたら落ち込んで家から出ないわ」
「木葉!誰もお前の顔なんか気にしねぇから安心しろよ!」
「木兎ォォォアア!」
「あれ何か気に触ること言った!?」


この茶番にも今日は許しを与える事が出来る。木兎さんには少なからず世話をかけたわけだし、今度の練習試合を観に来た彼女にこの人たちは前のとおり絡みに行くんだろうけれど。

「当たって砕ける」という選択を決意した俺にはそんな事、ほんの些細な事なのだ。

白石さんからも話があると言う事だったが、その内容が例えどんなにマイナスな事だろうとも受け止めようじゃないか。
心は男気で満ち満ちていた。
16.天使のスポットライト