16




影山くんから私に聞きたい事があるなんて、そんなことを言われる日が来るとは思いもしなかった。

でも影山くんに今のところ彼女が居ない、という事を聞けたので気が楽になり今ならどんな質問にも答えられる気がする。


「聞きたい事って?」
「初めて会った日の事」
「それは…入部初日…じゃなくて…」
「中学の、あの試合の日」


翔陽が、中学3年間の集大成として挑みあっという間に敗北した、初めての試合の日。

私が影山くんの姿に目を奪われた日。

そして、今となっては笑えるけれど、敵対心むき出しの対応を受けた日。


「あ、最初に言うけどあの日はごめん。俺すげえ頭に血昇ってたから」
「そうなの?勝ったのに」
「試合の後監督に怒られてイラついてた。」


何について怒られたのかは、もしかして王様と呼ばれる原因となっていた横暴なプレー(私には分からなかったけど)の事かな?と思ったけれど口には出さないでおいた。


「それで聞きたいのは、白石はあの日俺のどこにそんなにまで釘付けになったのか」


その釘付けになった理由は、これまでに何度か伝えてきたつもりだ。

トスが凄い、スパイクも凄い、なにより自分の体を自由自在に操れるその能力が凄い。

でもそれをもう一度直接言えるほど、私は肝が座っていない。今や影山くんのことが好きになってしまったんだから。


「えっと…えーと…大体は前言ったとおりの理由だよ」
「大体は?」
「うん」
「じゃあ細かく言って」
「エッ」


これは拷問??片想い中の相手に向かって、相手の魅力を事細かに語れと?

でも影山くんは冗談で言っている雰囲気ではない。私は意図が読めなくて数分くらい黙り込んでしまった。


「…どうしてそんな事聞くの?」
「そりゃあ…」
「………」
「…やべえ。よく分かんなくなってきた」
「うそん」
「とにかく音駒との試合で俺はイイトコ無しだった。だから理由見つかんなかったってLINEしてきたんだろ」
「うん、でもそれは、」
「じゃあ中学のあの試合で俺のどこにそんなに…」


熱くなり始めていた影山くんが、ぴたりと口を止めた。

しばらくの間私たちは二人とも無言となり、その間を埋めるために私はオレンジジュースを、影山くんは二杯目の烏龍茶を飲んだ。

またもや一気に飲み干した影山くんが再びドリンクバーへ。そして戻ってきた。


「…もしかして俺すげえ変なこと聞いてねえか?」
「う、うん。そうだねチョットね」
「くそっ」
「!?」
「聞きたいのはそんな事じゃなくて…」


影山くんが頭をくしゃくしゃ掻きむしって、じゅるるるると三杯目の烏龍茶も空にした。飲むスピードが並みの速さじゃない。


「じゃあ私から影山くんに言っていい?」
「…ああ」
「私、音駒との練習試合、イイトコ無しだったなんて思ってない」


確かに3試合すべてストレート負けだったけれども、翔陽とのコンビネーションが良かったところもあった。

これは練習試合だから言える事だが「結果が全て」じゃないし、影山くんが負けて悔しがるところも、先輩や翔陽と一生懸命合わせようとするところも素晴らしかったと思う。


「私、影山くんの動きがどうとかスパイクもできて凄いとか言ってたけど」


そういう事じゃなかったんだ。


「そうやって一切の妥協を許さずに、まっすぐ真剣なところが好き」


それを言ったら誰だって真剣だよと言われるかもしれない。

でも私の中では影山くんが一番だ。
すでに上手いのに、少しでも上へ上へと己を磨いていく。

学校の友達と遊んだり、夜更かしして休日にゆっくり寝たり、皆んながやっている普通の学生としての楽しみを全て引き換えにして取り組んできたバレーボールをする姿に、惹かれない人なんて居ないはず。


「……白石」
「なに?」
「今、好きって聞こえた」
「………ん?」
「………。」
「私、好きって、言った?」


そんな、楽しいこと全部を犠牲にしてバレーに取り組む影山くんを好きにならないはずはない。

でもそれをまさか本人には言えるはずもない。
と、思っていたのに。


「言った。」


どうやら、勢いで言ってしまったらしい。


16.失言