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音駒との練習試合には、負けてしまった。

けれども私はしっかりと影山くんの勇姿を見つめていた。
翔陽との素晴らしいコンビネーション。そして、たとえ翔陽が居なかったとしても一人で体育館内の注目を集める事のできる数々のパフォーマンス。したたる汗。それを腕でぐいっとぬぐう姿。タオルで顔をぐしゃぐしゃと拭く姿。水分補給を急ぎすぎて、むせる姿。自分で決めたスパイク、サーブ、その他のプレイに拳を握る姿。

あ、この人、かっこいい。眩しい。その姿を見ているだけで良かったのに、無性にそれでは満足できなくなった。

「どうして影山くんの姿に目を奪われるのか」、理由なんて存在しなかった。
無理やり理由を作るなら「好きだから」それ以外に思い浮かばず、『理由、見つかりませんでした』とのLINEを送った。
それを影山くんは、「負けっぱなしの試合だったから当たり前だろうな」と解釈したらしく『負けたから仕方ないです』との返信。

どうしよう、そういう意味じゃなかったのになと少し考え込んで、直接話をしたいなと思った。

明日の部活は休み。
影山くんへLINEする…と、


『明日、放課後暇ですか?』
『明日の放課後あいてますか?』


神様、これは運命ですか?同じ内容のLINEを同時に送りあっていました。

影山くんはどういうつもりで明日、会おうとしてくれてるんだろう。どういうつもりであっても、たぶん私のほうが沢山話をする気がする。好きだってこと、バレてしまうかもしれない。むしろバレて欲しいのか?私。

自分がどうしたいのか分からないけど、今日の試合を見てやっぱり影山くんは凄いのだ、素敵なのだと再確認したことを伝えたい。





そして翌日、どこで話そうかなと思い、お金を使うのもどうかと考え食堂はどうかと提案した。すると、


『学校外にしませんか』


これは学校外でのデートのお誘い!?
…そんな訳ないか。
食堂だと同級生や先輩の目があるからか。

私が一方的に「影山くんの凄かったところ」を伝える姿を学校の人に見られたらたまらないもんな。深く考えて、期待しないようにしなければ。

そんなわけで放課後、ホームルームが終わってから一目散に駅前へ早足で出発した。
心なしか足取りが軽い。だって影山くんと、バレーの話をするだけだが、二人きりで会えるんだから!
すると校門のところで翔陽が立っていた。


「あ、すみれ〜今から、」
「お先!」
「えっ!?」


なにか用事があったような感じだけど後でLINEなり何なりしておいてくれ!今はそれどころではないのだ!





駅に到着、ショッピングモールの前。
東京や横浜ほど大きな建物ではないけど、この辺りでは映画館も入ってたり、スポーツジムも入ってたり、ちょっとしたスポットだ。

張り切りすぎて早くに来すぎたかなあと心配していたけど、影山くんからLINEがきた。


『着いた。もう着いてますか?』


思わず口元が緩むのをこらえて、


『1階のサービスカウンターの近くです』
『行きます。』


と、短いやり取りをしてスマホを握り、なるべく浮ついてるのが分からないように下を向いて待った。

すると、前髪の間からスニーカーの足が歩いてきて、斜め前で止まったのが見えた。うわああ。


「…白石?」
「はい」
「なんで下向いてんだよ分かりにくい」
「ゴメンナサイ…」
「じゃ、あっち」


頷いて、影山くんの指す方向へ歩き始めた。私の二歩ほど前を彼が歩き、私はそれについて行く形で。

この微妙な距離。

この距離がこのままで良いと感じていたのはつい最近までで、今や私は。


「先言っとくと、俺すごい飲むから。ここでいいか?」
「は、うん」


モール内のファミレスの、ドリンクバーを頼む事になった。

影山くんはスポーツ少年で、毎日大きな水筒を持っていている&自販機で飲み物を買うし、部活中には別でスポーツドリンクを飲んでいる。そのぶん汗をかいているんだろうけど並々ならぬ水分摂取量だ。

私はまずオレンジジュースを、影山くんは烏龍茶を入れて席に着いた。


「…合宿お疲れ様でした」
「おお」


そこから何を言っていいのやら分からなくなってしまった。私、影山くんと普段どんな風に話してたっけ?
もっと普通に会話できていたと思うのに、頭の中で思い描いた台詞が出てこない。


「あの、あの試合で、」
「ごめん」
「??」
「先、謝る。負けてごめん」
「ええっ!?」


負けたからと言って私に謝る必要なんて1ミリも無いんだけど!


「なんで謝るの」
「…気ぃ遣わせてるから。」
「遣ってないよ」
「俺が変な事言ったせいで…」


そこで影山くんの言葉が止まり、ちゅううううと長い吸水音をたてて烏龍茶を飲み干し(途中で「ん゛っ」と少しむせていた)席を立ってドリンクバーに注ぎ足しに行った。

変な事って何だろうか。客観視すれば私のほうがよほど変な事を言っている。もしも影山くんに彼女が居たなら、後ろから刺されても文句が言えないような事を……あれ。

影山くんて、彼女いないのか?
居たとしたらショックだけれど、二人きりのこの状況はやばくないか?
慌てて、戻ってきた影山くんに聞いた。


「影山くん彼女いないの!?」
「ッはあ!?」
「ごめん私そういうの聞く前にこんな誘いをと言うかアレコレ余計な事を今まで沢山もし彼女さんが居たら」
「………、」


影山くんは、またストローをくわえて考え込んでいたけどふと顔を上げた。


「……いたら、白石にLINEなんかしない」
「…おお…」
「何だ」
「いや、もし彼女が居たら、ちゃんとそういうの…他の子と会わないとか…考えるんだなあって」
「そりゃそうだろ?」


いいなあ。影山くんにそんな風に思われて、付き合って、彼女以外とは連絡取らない。それをさも当たり前のように言う。


「影山くんの彼女は幸せだね」
「…居ねえけど。」
「あ!いや!彼女になれる人は幸せダネって意味で!」
「…そんな事より聞きたい事が」


ああ、「そんな事より」っていなされてしまった。少し浮かれすぎたみたい。

落ち着いて、影山くんの話を聞こう。


15.あと二歩の距離