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俺は目の前の川西太一という男に呆れるべきか称賛すべきか分からない状況に居た。
「白石さんにはひとまず部活に集中してもらおう」と落ち着いていたはずだったのに、「勢いあまって告白しちゃった」などと俺のポテトチップスの袋をびりびり破りながら言ってやがるもんだから。


「だってあんな状況であんなコト言われてさあ…俺すげえ好きなんだもん。抑えらんなかった」


好きな気持ちが抑えられなくて言ってしまったなんて、どうやって仲良くなろうか・部活の邪魔はしたくない・と悩んでいた男の言葉とは思えない。

しかし言ってしまったものは仕方が無い。白石さんがあまり身体に鞭打ちすぎるのも良くない事だし、それを止めようとした太一の行動は間違っていないし。


「それが白石さんのプレッシャーにならなきゃいいけど」
「…言わないほうが良かったかな」
「少なくともゲロってる時に言われたくなかっただろうな」


俺がそう言うと、太一は困ったように眉を下げた。そんな顔するくらいなら理性を働かせれば良かったのだ。恋愛においては太一でさえも冷静さを失われるらしい。





そして翌日、俺はまたも肩を落とす事となる。白石さんが登校してきていないのだ。

まさか太一が告白したせいでストレスになってるんじゃあ、と思ったが担任の話によればインフルエンザにかかってしまったらしい。
1週間は絶対安静との事なので、これでは終業式までに来られるかどうか。俺が親なら娘の部活が全国出場を控えていたとしても、絶対に家から出さないだろう。


「インフルってマジかよ…」


一応報告しなきゃならないだろうな、という事で昼休みには太一とナナコにその件を伝えた。
太一が頭を抱えている理由は何だろう。1週間も白石さんに会う事が出来ないからか。それとも単純に心配なのか。あるいは両方。


「逆に考えれば今で良かったと思うけど。試合と重なってたら最悪」
「うー…」
「…そだね。お守り効果だよ。不幸中の幸い」


ナナコが太一を励ました。そうか、そうだよな、と頷いた彼だがすぐにまた顔をしかめる。新たな問題に気づいたようだ。


「そうだお守り!せっかく買ったのに渡すタイミングねえじゃん」
「治ったら来るだろ、冬休みも練習するだろうし」


そのように伝えると太一はしぶしぶ頷いた。もしかすると、クリスマスに渡したいと考えているのかも。俺と違ってイベント事には結構敏感な太一の事だから。(ちなみに俺だってナナコにプレゼントをあげるつもりだ)

そして太一の話を聞く限り白石さんは頑固者のような印象を受けたので、インフルエンザが治っていなくても登校してくるんじゃないかと冷や冷やしたがきちんと1週間来なかった。

このまま終業式も休むのかなと思っていた朝、教室に入ると思わず足を止めた。
白石さんが来ている。クラスメートと談笑している姿は元気そうなので完治したらしい。


「あ」


白石さんが俺に気付いて一瞬目を丸くした。俺を見ると嫌でも太一を思い出してしまうんだろうな、という少しの申し訳なさがあるので会釈すると白石さんも会釈を返す。せめて俺からは余計な事を言わないでおこう。

けれどきっと太一には言ったほうが良いんだよな、白石さんが来ている事を。


『白石さん来た』


必要最低限の文字だけ打ち込んで太一に送信し、すぐには既読がつかなかったので携帯電話は仕舞っておいた。

…とはいえ今日は二学期最後の日、終業式だ。全校生徒が一番広い体育館に集い、校長先生の少し長い話を聞き「良いお年を」で締めくくられたところで終業式は終わった。

出席番号順に並んだ生徒たちの中に俺はすぐ川西太一を発見する。
隣のクラスだし、「か」行の彼は俺の斜め前に立っているし、ひときわ背が高い上に、終業式が終わったとたんこっちを振り返ってきたので嫌でも目に入ったのだ。


「けんじろ、けんじろっ」


小声で俺の名前を呼び手招きしているけど、周りより頭ひとつぶんデカイんだから白石さんにも気づかれるんじゃないか?


「何?あの子の事なら今は…」


周りに同級生が居るので白石さんの名前は伏せてみると、太一は首を振った。


「サッカー部、今日から合宿だって」
「…は?」
「今日から1週間、学校に」
「…って事は」
「…って事だよ」


太一の目には珍しく活き活きとした光が宿っていた。サッカー部が1週間の合宿、ということは白石さんが1週間同じ敷地内に寝泊まりする事になる。もちろんクリスマスもだ。
あのお守りを寒い中、大事なテスト前の日曜に神社まで買いに行った甲斐があるというもの。

しかしサッカー部が合宿するという事は当然、白石さんの想い人(かも知れない)ハヤシも1週間居る事になる。
クリスマスに同じ敷地内に居る男は俺たちだけでは無い。太一はそのへんの事をうっかり忘れるような奴じゃないとは思うけど。


「けど、会える確率は確実に上がるだろ」


ここ最近テストや白石さんの事で悩んでいた顔からは一変して明るい表情になっている。と言うより、普段どおりの顔に。


「…お前なんでそんな元気なの」
「告ったらちょっと吹っ切れた」
「すげえな」
「でも今度こそ、これ以上何もしないつもり。アレ渡すだけ。大会が終わるまでは」


だからもうちょい相談乗って、と太一は俺を肘で小突き、自分のクラスのほうへ戻って行った。必勝祈願のお守りは確かに貰えたら嬉しいだろうけど、本当に大丈夫だろうか。

しかしそろそろ俺もナナコに渡すプレゼントのことを考えなければならないので、あまり太一の話を聞いてやれそうにない。

努力型ナルシスト