08


テスト前の大事な大事な日曜日、の午後。本当なら人の行きかうショッピングモールなんか来たくなかったのに、親友に頭を下げられたんじゃ断る事が出来ない。

太一は「クリスマスまでに白石さんへ告白」するのは難しいと判断したらしい、俺もそう思った。だからせめてクリスマスプレゼントを渡したいのだそうだ。乙女かよ。そして、それに賛同したナナコが「私も付いていく!」と言い出して、必然的に俺も一緒に行く事になったというわけだ。
そんなのテストの後でも良いだろうと思ったが、居ても立ってもいられなくなってしまったらしい。


「買い物はいいけど二人とも、テストは大丈夫なんだろうな」
「お陰様で!」
「ええ、お陰様で」
「はあ…ったく…で、何あげんの」


同じクラスではあるが、白石さんの趣味嗜好は全く知らない。派手よりはシンプルなのが良いんだろうなって事ぐらいだ。
俺でさえその程度なんだからナナコも太一も当然皆目見当がついていないみたいで、うーんと口元に手をやって考え始めた。


「ナナコはクリスマスに何もらいたい?」
「えー…賢二郎の前で言わせるの?催促してるみたいじゃん」
「じゃあ俺にだけ教えて」
「おっけ、耳貸して」
「お前ら俺の勉強時間が削られてるってのは頭にあるんだよな?」
「あ、あります」


二人は近づけていた顔をぱっと離した、別に相手が太一なら余程じゃない限り構わないんだが目の前でやられるのは困りものだ。しかも今はテスト前!という危機感が彼らには無いらしい。

とりあえず三人で知恵を振り絞って考えた結果、下手にモノをあげるよりもお菓子の詰め合わせみたいなものが良いんじゃないか・という事に落ち着いた。女子ならお菓子が好きなはずだというナナコの主張が強かったせいもあるけど。


「それで大丈夫か?甘いもん苦手な女子も時々居るだろ」
「うーん…もし苦手でも、気持ちは嬉しいと思うけどなあ」
「ナナコは、だろ」
「うん」
「白石さんはどうかな…」


そこでしばらく三人とも固まってしまった。俺はもちろん女子に何をあげれば良いかなんて分からない。ナナコにはプレゼントと一緒にお菓子をあげれば喜びそうだというのが分かったくらいで。もしお菓子が好きだとしても洋菓子和菓子、チョコは嫌、チーズが嫌、クリームが嫌、など様々な可能性が考えられる。これだから食べ物は面倒くさい。
そのまま何も買わずに建物内を歩き回り、やがて小腹がすいたのでフードコートに寄る事にした。


「…難しいなあ」
「うん…あ、手袋とかどうかな?」
「それこそ好みが難しそうだろ」
「だって今日すっごい寒いし、これからもっと冷え込むよ」


寒いのだけは本当に嫌いだ。まだ12月の上旬、本格的な寒さはこれからなのだと再確認したところでふと今日の気温が気になった。
携帯電話で「仙台の天気」と打ち込んで調べようとしたとき、俺の目にあるものが留まる。話題のニュース欄だ。


「………」
「賢二郎どうした?」
「…ちょっと待って」


『宮城県代表白鳥沢学園、初の全国大会へ』…見出しを押すとニュースの記事が現れて、インタビューが含まれたそれに無心で目を通していく。

いかに地元の期待を背負いこの大会に賭けているか、毎日の練習をどんな気持ちでしているか、本番に向けての期待と不安。記事をスクロールしていくと最後に現れたのは、清々しい白鳥沢イレブンの集合写真であった。


「これ」


その画面を向けると太一は携帯電話を手に取って、静かに上から下までを読み始めた。彼が読み終えるのはそんなに時間がかからなかった。記事自体はそこまで長くないから。


「…すげ」


全て読み終えた太一は一言、そのように言った。バレー部でこれまで注目されていたのは主に牛島さんだが、サッカー部で一番の注目を浴びているのはハヤシである。体格もテクニックも判断力にも優れ、おまけにゲームの流れを作る司令塔。彼が背負う10番はきっと誰もが羨む番号だ。同級生がここまで話題にあがっているのは初めてで、正直「すごい」としか言えない。


「な。すごいなあいつら」
「……うん」


太一のテンションは先程よりも低くなっている。何故なのかはなんとなく分かった。俺も今同じ気持ちになったから。
そして今太一から俺の携帯を受け取って記事を読み進めているナナコも同じに違いない。サッカー部は念願の全国出場、そんな時にクリスマスプレゼントだなんだと浮かれたものを渡すのはプラスにならないのでは?という事を。


「…やめとくか」


太一がぽつりと言った。プレゼントを渡すのをやめるのか、白石さんへの片想いそのものを諦めるのか、どちらとも取れる言い方だ。


「白石さんを諦めるって事?」
「違う。プレゼント」
「ああそっちね…俺もそのほうが良いと思う」
「うん」


どうやら太一の恋は先が長そうだけど、何もこのクリスマスに必ず何かをしなきゃならないってことは無い。バレンタインもホワイトデーも、まだ来年だってチャンスはある。まずは同級生としてサッカー部の活躍を応援する事にしよう。
それで話が落ち着きそうだったのだが、ナナコが「あ!」と手を叩いたので空気が変わった。


「ねえ!太一が本当にサッカー部と白石さんを応援してるなら、ひとつだけ渡せそうなものがありそう」
「何?」
「お守りだよ。必勝祈願!」


これは名案だろうとナナコは胸を張った。お守りか、確かに悪くない。貰って悪い気はしないし、サッカー部の勝利を祈っているのは本当だ。もちろん俺も自分の学校が活躍するのは嬉しい。それがハヤシだとしても。


「なるほど…」
「決まりね」


太一もそれで合意した。やれやれだ。必勝祈願のお守りはとても良い案だし俺も賛成だったけど、神社までは少し歩かなければならない。勉強時間がまた減ってしまう事を失念していた。

恋は道連れ、世は情け