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「すげえの」って、いったいどんなプレーを見せてくれるんだろう!

興奮冷めやらぬ私は夜、翔陽に電話してみた。


『なにー?』
「翔陽!影山くんとどんな特訓してんの?」
『え、さっき見たジャン』
「でも明日、すごいの見せてくれるって言われた」
『えー…スパイクか何かじゃねえの?あいつ何でも出来るじゃん。腹立つけど』


翔陽は凄い人には「凄い」と言う、相手がどんなに嫌な人でも。
今のところ翔陽と影山くんは息のあったコンビとは言えないけれどだんだん二人は仲良くなってきた気がする。


『すみれ、入学してから影山の事ばっかり言ってんね』
「うん。だって」
『好きなの?』


好き?

…確かに影山くんの姿は好きだ。あの試合を見た日からずっと、次に会ったときのことばかり考えていた。

それがまさか同じ学校でマネージャーとして働けるなんて願ったり叶ったりだ。それは単にバレーボールのプレイヤーとして素晴らしい、尊敬するという気持ちでしかない…と、思う…のだが。


『おーいすみれちゃーん』
「おやすみ!」
『えッ』


よく分からなくなって、電話を切ってしまった。

好きといえば好きなのかなあ。
確かに、ずっと見ていたいと思える人だけど。それだけで恋と言えるんだろうか。

今のところ、付き合いたいとか手をつなぎたいとかそういう感情は無い。ただ、見ていたいだけ。





ついに土曜日、運命の試合の日。

月島くんと山口くんは、部に残れるかどうかのプレッシャーなども特に無いのでいたってリラックスしていた。

それに二人とも背が高いので、相手が翔陽だから勝てると思っているのだろう。私もきっと相手の立場なら、翔陽を目にした瞬間に勝利を確信するかもしれない。


「すみれ!お前昨日勝手に電話切りやがって」
「何だオマエラ夜電話とかしてんの?やっぱ付き合ってんの?」
「違いますよ。て言うかこいつたぶん好きな奴が…」
「翔!!陽!!!」
「……さーせん。」


余計なこと言って、入ったばかりの部活をかき乱すのはごめんだ。

しかもまだ影山くんのことが好きだなんて決まったわけじゃない。と言うか、マネージャーと部員が付き合うなんてプレーに差し支えるんじゃないかと心配になる。

私の仕事は、あくまで部員の人たちに最高のパフォーマンスをしてもらうためのサポートなのだ。


そしていよいよ試合は始まった。


…しかし、あっという間に終わったように感じられた。

私と練習していたときの何倍も生き生きとした表情でスパイクを打つ翔陽、打たせる影山くん。田中先輩のパワーに月島くんや山口くんの身長という武器。

澤村主将はどっしりとして、しかし反応はピカイチで、誰一人として脇役ではなかった。


そして私が一番感動したもの。

それはやはり、影山くんの動きひとつひとつだったが、その中でも勢いよくコートに突き刺さるサーブは美しいことこの上無い。

決まったときのガッツポーズも嬉しそうな表情も、初めて見る顔だった…格好いい。
ただ凄い人だと思っていたのに、初めて彼に対して格好いいという感情が湧き出た。


「…凄かった」
「言ったろ。すげえの見せるって」


満足げに汗をふく影山くんは、これからバレー部の一員として練習できる事にわくわくしている様子だ。
ここから更にあのサーブが磨かれるのかと思うと、自分のことのように誇らしい!


「影山くんはやっぱり凄いよ」
「…なんだよイキナリ?」
「王様の由来、あんな風に月島くんは言ってたけど…」


影山くんの表情が曇った。
でも、言わせていただく。


「コート上で皆を牛耳る王様じゃなくて、皆ついて行きたくなるようなバレーの王様になれると思う」
「…何だそれ。」
「コート上の王様より、バレーの王様のほうが凄そうじゃん!」


私の中では、もう誰にも負けないほどの実力を持った彼だけど。それでは満足していないはずの影山くんは、もっともっと凄くなる。

これから3年間その姿を追い続けてやるのだ、胸を張って王様と言えるその日まで。


「いいかもな。バレーの王様」


影山くんは出会って初めての笑顔を私に向けた。

07.ザ・キング・イズ・リボーン!