06




その夜。
部活を終えてバス停まで歩いていると、昨日と同じ場所で翔陽と影山くんが練習していた。
朝、あんなに早くから起きて練習していたのにこんな時間までしているなんて、二人は本当にバレーが好きなんだろう。

ふと思い立って、帰り道にあったコンビニまで戻ってアクエリアスを買ってきた。


「二人ともー!お、つ、か、れっ」


軽快に飛び出していくと驚いた二人は振り返り、翔陽は危うくボールを取り損ねるところだった。


「おうすみれ、部活は終わったの?」
「うん。もう7時前だよ」
「そんな時間か…」
「頑張りすぎると体に悪いデスよ、お二人とも」


そう言って、買ったばかりのきんきんに冷えたアクエリアスを取り出した。とたんに翔陽は目を輝かせて飛びついて来る。


「うわ!サンキュー!」
「…っす」
「ふふふん」
「なあ、さっき…月島だっけ?対戦相手の1年が来てさ」
「ああ…体育館にも来た。大きかったよね」
「影山とは違う威圧感てーの?なんか凄かった〜」


威圧感はあまり感じなかったけど、とっつきにくい感じの人だなあとは思っていた。影山くんとは別の意味で。
笑っていたけど、目は笑っていなかった。…ような気がする。私にはそこまでの観察眼は無いから、気のせいかもしれないし。


「…でも、大丈夫だと思う」
「ええ?」


翔陽が一気飲みしたアクエリアスを吹き出しそうになりながら、聞き返してきた。


「影山くんが絶対助けてくれる」
「…いやそれがデスネ、まだ俺にはトスが」
「二人はもうチームメイトじゃん!烏野にきて、一番最初に組んだパートナーだよ。絶対負けないね!」
「…何ですみれが自信満々なの?」
「翔陽がいっっっぱい練習してきた事知ってるから」


翔陽がバレーと出会ってからというもの、私は幾度となくスパイク練習に付き合わされ、何かに熱中した事の無かった翔陽が休みの日にもロードワークを欠かさなかった。

その努力が部活に入る前から意味のない物になっていいのか。そんなわけ無い。


「…あ、やだ泣いちゃう俺」
「泣くなボゲ」
「影山くん、翔陽をよろしくお願いします」
「えッ」
「嫌そうな顔すんじゃねーよ!」
「じゃあまた明日、私も早めに行きまっす」


今朝、早起きをして眠かった気分はどこかに消えた。あの二人が汗を流し、バレーに取り組む姿が私を元気にさせてくれるのだ。

それにやっぱり私の中では「間も無く影山くんの試合が観れる」という興奮でいっぱいだった。





翌日。

昨日より早めに行ってやろうと思い、5時過ぎに体育館に着くとすでに菅原先輩も来ていた。しかし、その前から練習を始めていたらしい翔陽と影山くんの姿があった。


「…翔陽、すご」
「ずっとやってるよ」


ことごとく影山くんのアタックを上げて粘っている翔陽に、影山くんも少しだけ疲れを見せていた。

どちらかが一瞬でも集中を切らせば終わるのだ、負けず嫌いの翔陽が先に根をあげるはずが無い。…でもこの様子を見る限り、影山くんも相当負けず嫌いのようだ。


すると、ある時翔陽が遠くにアタックされたボールに一歩、また一歩走って追いつき、きれいに影山くんのほうへと返したではないか!


「翔陽!」


思わず叫んだ。
影山くんも何かを叫ぼうとしたのか、口から出そうになったのか、口がいろんな形に動いていた。

そして、柔らかく、軽やかに、弧を描くようなトスを上げたのだ。





「ありがとう」


翔陽にトスを上げてくれて。という意味でお礼を言うと、なんの事だか分からないらしかった。


「…勝たなきゃ意味ねえから」
「そうだね!勝ってもらわなきゃ私が困る」
「何で?」
「影山くんのバレーする姿、近くでもっと見てみたい」
「………」


影山くんが黙ってしまった。

もしかして、惚れてるとかそう言う面倒くさい感情を持たれていると勘違いされたかも知れない。下心無しで、影山くんのプレーが見たいだけなのに。

訂正しようとすると、影山くんが先に立ち上がって言った。


「…明日。すげえの見せるからビビんなよ」


06.少年たちよ、胸を張れ