04




白石すみれ。

日向に聞いたあの女の名前。白石が啖呵を切って去っていったあと、自分も少し興奮しすぎたことに気づいた。


「…こえーよ影山。女子だぞ」
「……分かってる」
「王様って呼んじゃ駄目なの、知らねーんだよ。俺言っとくからさ」
「……」


王様、誇らしいはずのその呼び名は俺にとっては侮辱以外の何物でもなかった。

バレーができない悔しさでストレスが溜まっていたのもあり、必要以上に「王様」という単語に反応してしまった…女子相手に。
中学の試合の時もそうだが、ことごとくタイミングの悪い時に白石はやって来るのだ。





中学のあの日、試合が終わった後。

日向の動きに少なからず翻弄された自分に悔しさが募り、また日向のように俊敏に動けるやつが居るのにどうして自分のチームメイトにそれが出来ないのか、頭の中は負のスパイラルだった。

更に、監督すらもチームを乱しているのは俺であるかのような口ぶり。絶対におかしい。チームで最も練習量が多い自信がある。誰よりも努力している自信がある。そしてそれは実力として身についている、自他共に認めている。それなのに、それなのに…


「あの」


ちょうどその時、気持ちを落ち着かせようと音楽を聞いていると白石がやって来た。ついさっき戦った相手チームのマネージャーだ。
さすがに無視することは出来ず、最低限の会話にとどめようとした。


「何」
「えっと、凄かったです」


…凄かった?
俺は監督やチームメイトに散々言われた直後だ。そんな俺の何が凄かったと言うのだ。


「…何が?」
「サーブも…あの、ボール上げるのも…パス?とか、打つのも全部」


ああ、この会話だけでわかった。素人だらけのチーム、この女もバレーに関しては初心者。俺は苛立っていた。俺は強い。うまい。それなのに、周りは俺に合わせない。一人で頑張っている俺を監督は褒めるどころか指摘してくる。

そんな俺の状況を、バレーの事なんか何も知らない奴に知った風な口ぶりで「凄い」と言われるのが無性に腹立たしかったのだ。


「…さっきのとこのマネージャーだよな」
「え…あ…ハイ」
「あんたバレー知らないだろ」
「えっ」
「そんな奴に凄いとか言われても、嬉しくねえから。」


苛々をそのまま言葉に乗せて言い放つと、白石は硬直した。
その強張った顔を見た時、少しだけ「あ、やってしまった」と思ったが、それよりも苛々のほうが勝っていた。

そしてすぐに監督からの召集の声があり、その女を残して次の試合へと向かったのだった。





「すみれは無理やり俺が誘ったようなもんだけど、あの試合の日からバレーに興味持ち始めたんだぞォ」
「…ふうん」
「俺も王様呼びの事は言っとくけど、あんまり威嚇すんなよ!謝れとは言わねーけどさ」
「…お前ら付き合ってんのか?」
「はあ?無い無い。幼馴染」


幼馴染っつったって、無理やりバレーに誘われた男についてきて同じ高校に来るって事は日向の事が好きなのでは無いだろうか。
俺も恋愛経験豊富とは言い難いけれども。


「そんなにバレーが好きになったんなら、自分でやれば良いのに」
「あーそれは無理なんだ。すみれは小さい時に交通事故で、腰がちょっとおかしくなって」


日常生活に支障は無いけど、と日向が付け足した。

みんな色々あるもんだな、と感じると同時に、その怪我が白石の地雷である可能性を考え、先に教えてくれた日向に感謝した。

04.王様の失敗