2nd Monday


今朝、私はいつもより早く目が覚めた。


正直言って朝が弱い私だけど、入学試験や体育祭、修学旅行の朝など何かしら行事や大事なことがある日にはスイッチが入るように目が覚める。


今日もその「大事なこと」がある日だ。
五色くんの、再テストが行われる日。





学校に着いてから、五色くんはもう教室に来ているだろうかと隣のクラスをこっそり覗いてみる。


彼がどこの席なのか全く知らないが、すぐに発見できた。
周りの人よりも背が高い五色くんは座高も高く、肩幅が広く、更にはホームルーム前だというのに一生懸命机に向かう姿が目立っていたから。


「五色くん、おはよ」
「あっ!おはよう!今最後の復習してるとこ」


昨日の夜は気づいたら寝ていたから、との事。今朝も朝練があったはずなのに疲れた顔ひとつ見せないのは基礎体力があるからなのか、何に対しても真剣だからなのか。


「どうしたの?…あ、もしかして俺また何か忘れてたとか!?」
「あ、いや…そうじゃなくて…」


そう言えば私は何をしに来たんだろう。

五色くんに一声かけてあげようと思っていたんだけど、わざわざ朝一番に会いに来るなんておかしかったかもしれない。放課後、テストの直前でも良かったのに。


「あの、ガンバレって…言おうかと」
「ほんとに?ありがとう!絶対8割取るから。で、インハイ出るから!まだ補欠にも入ってないけど…」
「大丈夫だよ。五色くんは努力家だもん」


一体私は彼の何を知ってこんなふうに言っているのだろうか。
「五色くんに少しでもプラスになる言葉を言ってあげて、少しでもプラスの印象を与えたい」という下心が出ている気がする。

でも素直な五色くんは、私のそんな気持ちなんか気付いてなくていつもの笑顔で答えてくれた。


「そう言われると自信がついてきた!」
「ほんと?良かった」
「うん。白石さんみたいな、ちゃんと頑張ってる人から言われると特に」
「………!」


途中で私は息苦しくなって、言葉の続きが出てこなかった。
それを五色くんが不思議がる前にちょうどチャイムが鳴り、自分のクラスへ戻る口実ができたのだった。


私は自分が頑張ってるなんて思ってなくて、むしろ頑張りが足りなかったから補習の対象になってしまったのに。そんな私を「頑張ってる人」だと思ってくれているなんて。


私のほうこそつい数日前、五色くんのようなしっかり頑張ってる人に褒められると何だか自信が持てるな、なんて浮かれていたところだ。
なのに、息苦しいのはどうしてなのか。





昼休みにも五色くんの様子を見に行きたかったけど、さすがに通い過ぎるのはおかしいかと思い我慢していよいよ放課後になった。

先週補習を行っていた教室で再テストは行われる。

この再テストは言い出しっぺは私と五色くんだけど、残り二人の補習延長組にも公平に行われることになっていた。

そのため教室を見に行ったところ、既にその二人が入って座っている。五色くんはまだ来ていないらしい。


「……これじゃあストーカーじゃんね…」


自虐的に呟いて、明日の朝にテストの出来を聞こうかと思い振り返った時。
こちらに向かって全速力の五色くんが走って来ていた。


「あーー!居た居た白石さん!」
「ごっ…」


五色くん!?という私の声と、五色くんが急ブレーキをかける足音が重なって私の声は消えた。


「探してたんだよ、受ける前に会いたくて」
「………えっ!?」
「ありがとね。俺頑張るから!」


五色くんは私に向かって大きな手でブイサインをしてみせた。が、そのブイサインなんかより、「私に会いたくて、私を探してたの?」と言う事のほうが私の頭をいっぱいにしていた。

そんな事言われたらいくら何でも変に意識してしまう。…気付かないふりをしていたけど、既に私は五色くんに対し変な意識を持ってしまっているのだから。


「…うん。頑張って」
「うん!あ、良かったら連絡先教えて!」
「え、」
「結果が出たらすぐに教えたいから」


落ち着け私、これは五色くんからの「勉強を教えてくれたお礼」だ。何も変なことは無い、私だって同じ立場なら結果をすぐに教えようとするはず。

だからこれは変な意味はなくて、五色くんは私のことを特別視しているとか、そんな事は絶対に無い。はず。


「……あれ、だめ?」
「!! ううん、えっとLINEでいいかな」
「いいよー」


そうして私と五色くんはLINEを交換し、テスト結果が出しだい連絡をくれると約束した。


五色くんが教室に入り席につくまでを見届けてから去ろうとすると、教室の中から五色くんが親指を立てて「頑張る!」と口パクした。

…落ち着け私、落ち着け、と脳から必死に指令を出してみたところ、私は無言で頷くしか出来なかった。





本当はテストが終わる時間まで待機して直接聞きたいところだけど、やっぱりさすがに変だよなと思い真っ直ぐに帰宅した。


電車に乗りながら交換した五色くんのLINEのプロフィール画像を見てみると、中学の時にバレー部のユニフォームを着ている姿だった。似合ってるなあ。


そこで、慌てて自分のプロフィール画像をチェックしてみると白鳥沢に合格した時に撮影した校門前での写真だった。
嬉しくて泣いた後だったから変な顔だ。

急いでマシな写真が無いかと画像を探す。
去年の夏祭りで浴衣を着て撮った写真(わりと写りがいい)をプロフィールに設定し終えたところで、電車を乗り過ごしていることに気付いた。何やってんだ私。





家に着いてからというもの私は五色くんからのLINEが来ないかと、常にスマホを傍らに置いていた。
今日の授業の復習や宿題をしている間も、夕食の時にも。


食卓に置いてちらちら画面を見ていたらお母さんに怒られたので、こっそり膝の上に置いていたけど一向に連絡が来なかった。


もしかして、結果が良くなかったとか?または、連絡してくるのを忘れているとか?…まさか「結果を教える」というのは建前で本当はそんなつもりなんか無かったとか…


「あんたスマホ触りすぎ。」


一緒にテレビを見ていた姉からのツッコミを受けた。ちなみに私はスマホが気になっていたのでテレビの内容は入っていない。


「…だってえ…」
「なーにーカレシ?」
「ちが、ちがうし!彼氏とかいないし!」
「はいはい好きな子が居るのね」
「なっ」


大学生の姉はけっこう美人で、恋愛経験もおそらく人並み…か、少し多いほうだと思う。
だからなのか私が男の子からの連絡を待っている事に簡単に気づかれた。


「…好きとかじゃないけど」
「気になる子?」
「……もう!いいじゃん別にっ、」
「ふふ。LINEきてるよん」
「ふぁ!!?」


姉がにやにやしながら指さす先には手元に置いたスマホがあって、待ちわびていたLINEが来ていた。
姉が横目で見ているのなんか気にせずに、すぐさま画面を開いてメッセージを表示させる。


『こんばんは!テストは無事に終わりました。結果は明日だって!』


と、言うことはまだ8割以上取れたのかどうか分からないのか。でも「無事に終わりました」という事は、手応えがあったように思える。


「……お、つ、か、れ、さ、ま…」
「ぷっ、声でてるよ」
「うるさいなあぁ!」


『お疲れ様。合格点とれてるといいね!』


たったこれだけの文章を打ち終えて送信するまでに5分以上も費やすなんて、つい一週間前の自分からは想像出来なかった。
そもそも先週の日曜日なんか、五色くんの存在自体を知らなかったんだから驚きだ。

五色くんからはすぐに返信がきた。


『うん!頑張る!』


頑張る!って、もうテストは終わってるからあとは結果を祈るだけなのになぁと微笑ましくなった。
しかし、にやついている私を見ながら姉が更ににやついているのに気付き、黙って自室へ戻ったのだった。


部屋にこもってからもう一度スマホを開けると、なんと五色くんから続けてメッセージが。


『明日の朝には採点終わってるらしいから、一緒に聞きに行きませんか?』


…こんなメッセージひとつ、変な意味なんか無いはず。なのに。

いざ、勝負のMonday