03




あれから翔陽と影山くんは先輩たちに勝負を挑み、土曜日に3対3で試合をすることになった。

でも体育館を使えないから、どうにか練習場所を探して特訓しているようだ。
私はあまり練習風景を見ていなくて、清水先輩にマネージャーとしての仕事とか、バレー部の仕組みとかメンバーを教えてもらったりしてた。





数日後、さすがに新しいクラスで新しい授業、さらに部活でそろそろ疲れてきた私は帰路に立っていた。すると、ボールが転がってきた。


「下手くそ!やっぱりお前となんか組めねえ」


続いて、怒号。影山くんだ。


「うるせーなあ!俺がいなきゃ3対3にならねぇだろ」
「実際こっちは二人みたいなもんだろ」
「んんんんだとオォォォア!?」
「ちょちょ、二人とも…」


何やら怪しい雲行きだったので、転がってきたボールを拾って慌てて間に割って入ると言い合いはぴたりと止まった。


「喧嘩してる暇ないんじゃいの、土曜日すぐだよ」
「おう、すみれ」
「何だお前?」


影山くんが明らかに眉間のしわを深くしていた。何故こんなにも嫌そうな顔をされるのだろう?


「わ、私、マネージャーです」
「………」
「あの時、影山くんの試合見てて感動して」
「感動?」


その時初めて影山くんが私のほうを見て、目があった。しかしその目は笑っておらず、むしろ怒りに燃えているかに見える。


「何に感動したんだ?」
「か…影山?」


恨めしそうに私を睨む姿に、翔陽ですら慌てている。


「何にって、あの時も言ったけど…トスも何もかも全部、凄かった」
「…トスが?」
「うん!ぎゅんって速くて、さすが王様って呼ばれるだけあるなって」
「馬鹿にしてんのかお前」
「へ……」


その威圧感は、私に対する負の感情の大きさを物語っていた。
どうしてかは全然分からない。でもとにかく私は意図しないところで彼の神経を逆撫でしてしまったらしい。


「馬鹿になんか…」
「俺のトスが?凄かった?そうだろうな。何も分かっちゃいないくせにヘラヘラ褒められたって嬉しくないんだよ」
「影山!」


今日は特に虫の居所が悪かったのかもしれない。が、そんなこと言われる筋合いはない。だって私は本当に凄いと思ったんだから。


「…ナニソレ」
「日向だけでも迷惑なのにお前みたいなやつが居るなんて」
「なに…」
「王様なんて呼ばれて嬉しくも何ともねえよ」
「…うるさい」
「何?」
「じゃあどう言えばいいんですか!!!」


気づけば私は大声で叫んでいた。


「ちょっすみれ」
「馬鹿になんかしてない!私はバレー分かんなかったけど!あれからルールも勉強したし、本当に凄いと思ったんだもん。凄いものを凄いって言って何が悪いの!他にどう言えばいいの!馬鹿はそっちだっつーの!!」
「すみれ!?」


視界の端で翔陽がぎょっとしているのが見えた。
そして目の前で影山くんも、ブチ切れた私の姿に呆気にとられている。…そんな顔したって許さない。
私の純粋な憧れを踏みにじったのだから。


「じゃ!土曜日頑張ってクダサイね!」
「すみれ?おい…」
「おやすみ!!」


声をかけられたら泣いてしまいそうだった。

ずっと憧れていた、素晴らしいプレイヤーを近くで見ることが出来る。ボールを追いかける姿、きれいなサーブ、バレーの知識が無い私ですら釘付けになる美しい姿を。

それなのに私は何故か大いに嫌われているらしい。イライラした私は大声で言葉にならない事を叫んだ。

03.馬鹿はそっち