Liz
あれから「家族」との食事の席は設けられませんでした。正妻がジャックのことを気味悪がるのです。そのくせ、顔を合わせると、いつでも彼の不幸を花の蜜でも啜るようによろこんでいました。
「あんな死に方をして」
ジャックは妹の死因に関して、詳しく聞かされていませんでした。けれど、正妻は、紅の汚い唇を必死に動かして、懸命にジャックにそのことを聞かせ、時には責めるように問いただしました。
「見つからない方が良かったのに。汚らわしい。私たちがどんなに迷惑しているか。お前にわかる?」
苦痛はとうに限界を超えて、少年の心を軋ませていたことでしょう。悲しみは彼から希望を塗りつぶし、生きる力を剥奪しました。ジャックは、自分が十二になったことにも気がつかないまま、年を越しました。
一月二月と時間が経つ中、リズを殺した犯人たちは未だに捕まっていませんでした。捜査に進展はありません。父が無能な警察を激しく罵っているのをジャックは何度も目撃しました。ピーターとポールもそのやり取りを遠巻きから聴いては、愉快だと笑っていました。彼らもまた、父親を目の敵にしているのでしょう。
父は、母とリズだけを深く愛していました。そして、それ以外は、全て等しく無価値なのです。あの意地の悪い兄弟も、ジャックのように邪険にされることこそありませんでしたが、興味がないという点において、平等でした。
「お前、何をぼさっとしているの」
正妻は、以前に増して、家の中で威張り散らしていました。ジャックに庇護がないのをいいことに、彼女は彼を召使いと同じ扱いをして、何かとけちをつけたり、命令をしたりしました。もちろん、ジャックがそれに従う必要はありません。しかし、彼女は少年から衣食住を奪うだけの力を持っていました。
「部屋の掃除をしておいで」
ジャックがひざまずく姿がたまらないのでしょう。死んでもなお憎くて仕方のない女の、腹を痛めて産んだ子が、床に這いつくばって惨めでいる。可愛らしい、苦労知らずの白いお手手が、寒さのためにひび裂けて、赤く染まる。それを見ることだけが、彼女の胸をすうっとさせ、腹底で煮えている怒りを静めてくれるのでした。
「屋敷中の暖炉を掃除してくるんだ。手を抜いてもわかるからね。後で確かめに行くんだから」
嗜虐の濃い色を浮かべて、女は言いました。その顔の恐ろしさといったら。憎悪に燃えた細い面おもては、醜く、悪魔のように見えました。
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