Liz
その朝はやってきました。
ジャックは、お屋敷の誰よりも先に目を覚ましました。しいんとした部屋の中、閉じきったカーテンを裂くような光が一筋見えています。ジャックは温かい布団から這いだして、そろそろと窓辺に近づいていきました。
水色の美しい瞳が、その姿をとらえました。
彼は既に駆けていました。足がもつれるのも気にしていられません。はやく、はやく、誰よりも先に。彼は夢中で走り、庭へ飛び出しました。
「リズ!!」
小さなリズは、庭を囲む塀に体をあずけていました。彼は喜色を満面に浮かべ、駆け寄りました。
しかし、その姿をはっきりと認めたとき、彼の足は凍りついて、歩みを止めていました。
確かにリズはそこにいました。白い肌をさらして、寒空の下で、静かに座っていました。妹に、ジャックは近づくことさえ出来ませんでした。目を開いているリズが一体どこを見ているのか、わかりません。人形のように放り出された手足。幼い体は、ところどころ鬱血させていました。あちこち青く変色して、赤紫の痣が目立っています。その体には、乾いた不透明の何かが付着していました。切れた唇の端から顎にかけて。股から腿にかけて。まるで流れ落ちたようにリズの肌を伝っていました。きれいなお母さんに似た顔や、柔らかな髪にも塊になって、くっついていました。
ジャックにはそれが何であるかわかりませんでした。ただ、それが酷くけがれていて、リズを不浄のものにしていることだけは、頭の芯が冷えるほどはっきりと理解できました。ジャックはその場に立ちすくんだまま、動くことも出来ずに、静かに涙を流しました。
家の者が彼らに気づくのは、あと少しだけ先のこと。
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