Jack | ナノ


First




それは骨のようだった。文字通り、骨が皮に包まれているだけの人の体。それが壁を背に崩れかかり、死んだように横たわっている。

男は思わず顔をしかめた。投げ出された手首には血管の色が薄っすらと見えた。剥き出しの肩は骨がそのままの形で浮き出ている。踏めば砕けそうな体は、腕も脚も痩せこけて、尋常ではない。そして何より小さかった。それはまだほんの子どもに過ぎなかった。地に流れる豊かな髪だけが、それが女であることを示している。露出した娘の肌は血の気を感じさせぬほどに白い。そこに人間の温かみは感じられなかった。顔は髪に覆われて見えない。
見た限りでは、生きているようには見えない。しかし、問題はこれの死んでいる場所だった。ここは男の玄関だ。もちろん、今朝、男が家を出たとき、こんなものはなかった。階段の上の電燈がジジジと弱光を放っている。
男の家は大通りの裏へ続く、細い路地の中途にある緑の門扉をくぐり、庭を進んだ先の階段を上がったところにある。骸のような娘はこの玄関を背にして、無造作に捨て置かれているのだった。

「おい」

娘は死人のように沈黙を守っていた。身動き一つしなかった。

「お前なぁ、死に場所くらい人の迷惑にならないところを選べよ」

仕事で疲れて帰ってきたところにこれだ。男は嫌々と頭(こうべ)を振った。あれこれ考えるのも面倒だった。死体を放置するのも、あとで死体が出来るのも困る。とりあえずこれが生きているかだけでも確かめておかねばなるまい。
男はしゃがみ込み、その長い髪を掴んで顔を覗き込んだ。

「あ? まだ生きてんじゃねえか」

辛うじて息があった。小さく開かれた唇は乾燥していて荒れていたが、だが確かに細い息をゆっくりと繰り返していた。呼べど応答はなかったが、浅い呼吸は規則正しかった。僅かに上下する薄い胸を一瞥し、男は呟いた。

「……仕方ねえな」

深い溜息で男の広い肩が沈む。男は少女を抱き上げた。仰け反った娘の首の頼りないこと。





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