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じゅぶじゅぶといやらしい音立てて細い脚が揺れている。


喉の奥から唸るような声がもれた。どこに力を入れようとしても目眩がして手足がしなびる。意識はあるが、身体が言うことをきかない。細い鎖を幾重にも巻かれ、縛り付けられた体に自由はなかった。


地下はあらゆる音をもたらさない。その代わりにあらゆる音を閉じ込める。鼠色の壁に二つの影が重なっている。影の小さい方は突き上げられる動きをしては声を上げ続けた。悲鳴は、はじめ意味のある言葉だった。が、次第に意味のない、ただの音になり、喘ぎ喘ぎ、時には口に何か詰められたように大きくえづきもした。


何度か名を叫ばれた。その度、首にくくられた鎖が咽頭に食い込むほど暴れもしたが、次第に薬が回って、四肢が痺れていった。

激しく肉と肉が打ちついて、淫猥な、聞き覚えのある、濡れた、粘着質な音が絶えず響いている。腹を押さえつけられて、背後から何度ども何度も穿たれる少女の、ぼうっと白く光っているような二本のほっそりとした脚が小刻みに震えて、伸び縮みする。肌理(きめ)の細やかな皮膚が何カ所か赤みが差している。あれは自分のつけた痕に違いなかった。


目眩が頻繁に起こって、意識が白濁としたころ、ふっと身体にかかっていた圧迫が失せた。と思うと、尋常ではない激痛が肢体を駆け巡った。鎖の障害がなくなった途端、心臓が噴き上げるように血をめまぐるしく全身に叩きつけたのである。


自由になったらしい腕を振って空を切ったが、何にも触れることは叶わなかった。勢いのまま鎖の枷に足をとられ、どうと倒れた。


「無様ですね」


くつくつと笑う声がした。白濁とした意識の中、なんとか床に腕を突いて身体を起こした。瞬間、目の前で火を焚かれたかの如く緋色の閃光が烈しく目を眩ませた。とっさに顔をかばう。男の笑い声が大きくなった。


「薬が強すぎましたかね。図体がでかいだけで、子どものように無力だ」


何かに蹴り倒された。受け身もとれず、されるがままに横倒しになった。


「彼が惨めな芋虫のようになっている様を見ていて、いかがです?同情しますか?」


光源を避けながら、おそるおそる顔を上げた。


幼い裸婦がそこにいた。冷えきった床に尻をついて、壁に背を預けている。蒼白の顔には深い碧眼が沈んでいた。髪は汗のためか額に貼り付いて、乱れに乱れている。胸元は手つかず綺麗なままであるのに、乱雑に折り曲げられた膝には無数の新しい痣がみられ、股ぐらはもらしたみたいに濡れて光っていた。


「とうとう助けてもらえませんでしたね」


男が少女の髪を鷲掴みにして、強いて前に突き倒した。少女の息の詰まる悲痛な声が喉にこもって、つっかえた。


「苦しいですか?でも、ほら、今なら彼に助けてもらえますよ」


少女は頼りない腕を頼りに上体を起こそうとした。丸びて背骨の露わになった白い裸体は、茶色い革靴によって踏みつけられた。


「ほら、言ってご覧なさい」


少女は何も口にしないかわりに、べたりと地に頬をつけたまま、目を伏せている。幼い唇は擦り切れて、血肉を見せていた。


混濁した思考が一つの考えにすがりつく。


頼む。


どうか悪い夢であってくれ。





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