08
体験入部の試合を思い出しながら行く宛もなく廊下をふらふら歩いていると、ふと我に返り監督の学級の教室へと急いだ。
「監督、入部届けください」
あの試合はあくまで体験入部中での出来事だ。
まだ正式にバスケ部に入ったわけではなかった。
俺としたことが実に不覚。
「なんなのもー今日は。アンタも?」
「誰か来たんですか?」
「黒子君もさっき同じこと言いに来たの!」
あぁ、なるほど。
出遅れた。
机の引き出しから取り出されたファイルから一枚紙を抜き、差し出される。
「ありがとうございます」
善は急げ。
早速自分の教室へと帰り記入しようと試みたところで監督はあっ!と声を上げた。
「受け付けるのは月曜朝8時40分の屋上ね!」
嫌な予感しかしない。
そしてその嫌な予感が当たった月曜日。
入部届けを出しに屋上へと繋がる階段を登り、ドアを開けたそこには立ち塞がるようにして目の前に仁王立ちしている監督がいた。
そんな彼女は不気味な笑みと共に言った。
「待っていたぞ!」
どこぞの魔王みたいなセリフを。
「あほなのか?」
「決闘?」
そこは既にバスケ部入部希望者が集まっていた。
彼等は口々に呟いていたがその声は彼女には届いていないようだった。
「つーか忘れてたけど月曜って……あと5分で朝礼じゃねーか!」
何かあるとは思っていたけれどこういう事だったのか。
「とっとと受け取れよ」
面倒臭そうに火神は紙を監督へと渡そうとした。
だがそれを簡単には受け取らないようで。
「その前に一つ言っておくことがあるわ。去年主将に監督を頼まれた時約束したの」
一呼吸おいて俺たちを見渡した監督は言い放った。
「全国目指してガチでバスケをやること!もし覚悟がなければ同好会もあるからそっちへどうぞ!」
「……は?そんなん――――」
それに反論しようとした火神の言葉を遮る。
「アンタらが強いのは知ってるわ。けどそれより大切なことを確認したいの」
強さよりも大切なことは自分でも分かってるはずだ。
それを今自分で持っていることも知ってる。
「どんだけ練習を真面目にやっても"いつか"だの"できれば"だのじゃいつまでも弱小だからね。具体的かつ高い目標とそれを必ず達成しようとする意思が欲しいの」
なんだか監督がやりたい事が分かってしまったかもしれない。
だからこの朝礼5分前という時間を選んだのか。
「今!ここから!学年とクラス!名前!今年の目標を宣言してもらいます!」
思った通り、この場所から叫ぶのか。
まあ度胸試しにはもってこいだ。
監督が若干というかとても楽しそう。
「さらにできなかった時はここから今度は全裸で好きな子に告ってもらいます!」
はあ!?聞いてねー
いや勧誘の時いってた!
けどまさかここまで……!?
そんな声が聞こえてきたが日本一になるならばそんなこと容易いことだ。
「さっきも言ったけど具体的で相当の高さのハードルでね!"一回戦突破"とか"がんばる"とかはやり直し!」
「余裕じゃねえか。テストにもなんねぇ」
そんな監督の挑発に嘲笑うかのように言った火神が柵の上へとジャンプし、全校生徒が揃う校庭に向かって宣言した。
「1年B組5番!火神大我!"キセキの世代"を倒して日本一になる!」
それに油を注ぐかのように俺は柵に手をかけ彼と同じように宣言した。
「1年B組12番、橙山真冬!このチームを日本一にさせる!」
叫んだ後に必然的におこる静けさは恥ずかしさを加速させている。
「次はー?早くしないと先生来ちゃうよ」
早く、と促す監督の傍に拡張器を持ったテツヤがいた。
どこから持ってきたんだそれは。
「すいません。僕声張るの苦手なんで拡張器使ってもいいですか?」
「……いいけど」
驚いているのか呆れているのかわからない表情で肯定する監督の言葉を聞き、テツヤは拡張器を構え息を吸った。
今まさに宣言しようとした刹那、後ろにある閉まっていたはずのドアが勢いよく開き、心地よい風と頭痛がしそうなほどの怒号が屋上全体に届いた。
「コラー!またバスケ部か!」
「あら今年は早い!?」
そんなやり取りを耳にし正座をさせられ説教を受けている間、去年も同じ事をやっていたんだろうと俺は一人思っていた。
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