勇仁とふじみ坂中央駅に行くと、ハルくんがベンチに座って待っていた。 遠目から見るとハルくんはなんだかこそこそしていたが、アプモンと話しているのであろう。私たちが近づくと、アプモンは隠れてハルくんはこちらを向いた。 「おまたせ、ハル」 「勇仁! 優希ちゃんも!」 ハルくんはカバンを持って立ち上がると、「じゃあ行こっか」と言って改札に向かった。 どうやら亀浦シーサイドパークに、今人気のアプリゲームのレアアイテムを探しに行くらしい。私はゲームなんて興味無いが、観察するためにはいい機会かもしれない。そんなことを思っていると、ハルくんが話しかけてきた。 「優希ちゃんもゲームやってるの?」 「…私? 私は自分のスマホ持ってないからお兄ちゃんのでやってるの」 「そうなんだ。じゃあ今日レアアイテム取れるといいね!」 「うん」 笑顔で返事をすれば、ハルくんも笑顔で返してくれた。 実際に勇仁のスマホでやってなんかいないので勇仁は私を見て困ったように微笑んできたが、私はそれを無視して反対側の壁に寄りかかった。まだ着くのに時間はかかりそうだ。そう思い、目を瞑って休むことにした。 ***** 亀浦シーサイドパークに降り立つと、見覚えのある黄色い頭の人がいた。あの決めゼリフと声からして、人気アプチューバーのアストラだとわかる。 スマホで動画を撮っていた最中に仰け反っている所でこちらに気付き、駆け寄ってきた。 「ハルじゃーん! あ、どうも!」 私達はおまけみたく挨拶をされ、勇仁も挨拶を返す。私は黙って突っ立ったまま彼を見ていると、特に気にしない様子でハルくんと会話をし始めた。 どうやらアストラもLトレジャーを探しに来たらしく、偶然に会ったことでとてもテンションが上がっている様子だ。そしてそこに偶然居合わせたアプリ山470のエリちゃんとも合流し、さっそく探しに歩き出した。 まさかこんなところでアプリドライヴァーが揃うとは思ってもなかったので、少しだけ心が躍る。 私の歩く速さが遅いのか時々小走りをしながら着いて行くと、それを見た勇仁が手を差し伸べてきた。 「大丈夫か? 優希」 勇仁が立ち止まると隣で歩いていたハルくんも止まり、続いてエリちゃん、アストラも止まってこちらを振り向いた。 一斉にそんな視線を向けられると、少しだけビビる。 「もう少しゆっくり行きましょ」 「ええ〜? しょうがねーなー…」 エリちゃんの言葉に、アストラは言葉通りしょうがなそうに言った。 ここはハルくんの目も周りの目もあるので、本当は払い除けて無視したい勇仁の手を掴み、笑みを浮かべて「ありがとう、お兄ちゃん」と言った。 勇仁は微笑み返してきて、皆に「ごめんな」と謝る。 「ま、急いだ所で見つかるとは限らないしな!」 ***** それからいろんな所を回ってみたが、なかなかLトレジャーは見つからない。 周りの知らない人達から教えてもらった情報を頼りに歩いているが、皆の反応を見るにイマイチな物ばかり当ててるらしい。 すると、アストラが唐突に走り出して目の前の柵を飛び越えた。勇仁もノリに乗って柵を飛び越えると、ハルくんも負けてらんないぞと言わんばかりに走り出したが、足がもつれて頭から植木に落っこちてしまった。勇仁は駆け寄り、アストラは笑っていて、私とエリちゃんは呆れ顔で見ていた。でも少しだけ面白かったので、私も軽く笑った。 「優希ちゃんは私とあっちから降りましょ、あんなバカな真似しちゃダメなんだから」 一緒に階段を使って降りて行くと、ハルくんを座らせてアンドロイドが擦ったおでこに絆創膏を貼ってあげていた。 「ねえ、二人って本当、タイプ全然違うよね」 二人を凝視していたエリちゃんがそんなことを言い始めた。 「ハルは大人しくてのほほんとしてるけど、勇仁は運動神経よさげで友達からも頼られてそうじゃない? 全然タイプ違うのになんで仲良くなったの?」 それを聞き、勇仁とハルくんは視線を合わせ、昔の話をし始めようとした。勇仁をそんな風に作ったのはハルくんの憧れる人物像を元にして作ったからなので、正反対になるのは当然だ。 そんな事を思っていると突然アストラが叫び始め、新情報で亀浦自然公園でLトレジャーが見つかったと話をした。亀浦自然公園はここからモノレールで2駅らしく、今度はそこに行く事になった。 しかし、駅に行ってみるととても人が溢れていた。どうやらさっきアストラが言ってた新情報で亀浦自然公園に行く人が多いのだろう。すると電車が丁度着き、扉が開くと人が流れ込むように入っていく。私は人の流れに巻き込まれ、流されるままに電車に乗ってしまった。 さっき聞こえた感じではハルくんとアストラもこの電車に乗ってるらしいので、亀浦自然公園で降りれば二人に会えるだろうなんて思って落ち着いていると、人ごみを掻き分けてハルくんが私を見つけてくれた。 「優希ちゃん、大丈夫?」 「……うん」 ハルくんは安堵した表情で「よかった」と言うと、私の手を掴んだ。 「離れると危ないからね」 「…ありがとう」 私はそれだけを言った。 深海ハルは昔からこんな調子で優しい。前にも似たような状況の時に手を繋いできて、似たようなセリフを言った。 正直、嬉しくないわけではないがとても怖い。勇仁はアンドロイドなので手を繋いでも別に怖くはないが、人間相手だと訳が違う。手の冷たさとか、汗とかで感情が読まれてしまいそうでとても不安になる。 亀浦自然公園まで2駅なのでそんなにかからないはずだが、今だけはとても長く感じた。 駅に着いて人の波に流れるように電車から出ると、皆はすぐさま改札口に行ったのであっという間にホームに人がいなくなってしまった。皆Lトレジャーを探しに亀浦自然公園の方に行っただろう。 ベンチに座ってため息をする、人混みの中でとても疲れてしまった。 「大丈夫? 優希ちゃん。飲み物でも飲む?」 ハルくんが重そうに持ってた鞄の中から水筒を出して見せてきた。そう言われると喉がカラカラだったのでハルくんから水筒を貰うと、コップに注いで一口飲んだ。 「お、弁当もあるじゃねーか!」 アストラが勝手にハルくんの鞄を漁り、中に入ってたお弁当を手に取った。 ハルくんは「それは勇仁の!」と止めようとするが、アストラもお腹が空いているらしく、しょうがなそうに半分だけ分けてあげている。 私もハルくんにお握りを貰い、包んであったラップを取って食べ始めた。ハルくんのお母さんのご飯はとても美味しくて好きだ。ただのご飯だけでも美味しく感じ、美味しくなる魔法でもかかってるんじゃないかと思う程。 母親役の助手の料理には感じられない暖かさと愛情が感じられ、これが母親の愛なのかと思った。 私の実の親はLコープの人間だったが、私をLコープに売り、その金を持って逃げてしまった。そのことに関して悲しみや憎しみなどを抱いたことはないが、親に愛されている人を見ると少しだけ羨ましく思ってしまう。 私はお握りを食べ終わってラップのゴミをハルくんに渡すと、ハルくんのお弁当箱からお握りを一つ取り、2個目を食べ始めた。 少ししたら勇仁達が乗った電車が来たらしく、私2個目のお握りを食べ終わって片付けようとすると、電車は止まるどころか目の前を通過して行ってしまった。 ハルくんとアストラが唖然とする中、私も唖然とした。 「おい、どこ行くつもりだよ! この先まだ工事中だぞ!」 「ええ!?」 混乱する中、ハルくんは突然アストラとではなく何かと会話をしだした。多分バディアプモンと会話をしているのだろう。だとしたらこの騒ぎはLウイルスでアプモンが暴走しているに違いない。 どうやら深海ハル達はアプリアライズしたいらしいが、私を気にしてこそこそと話している。全く、君たちのせいで勇仁が壊れてしまったらどうしてくれるんだろう。 私は立ち上がると、2人に笑みを浮かべてこう言った。 「隠す必要なんてないよ。早くみんなを助けてあげて」 「優希ちゃん、なんで…」 「ハル、今はそれよりも…!」 アストラはハルの肩を掴み、アプリアライズを急かす。 するとハルくんは私を困惑な目で見て来たが、皆を助けるのが先だと思ってアプリアライズをし、ARフィールドに飛び込んいった。 私はさっきまで座っていたベンチに戻り、2人が残していった手荷物をまとめてここで待つことにした。どのくらいかかるんだろう、そう思ってどう暇を潰すか考えた。 ***** いつの間にか寝てしまったらしい。目を開けると、空は紅色に染まっていた。 私の体にはいつの間にかハルくんが着ていたダウンベストがかかっていて、辺りを見回すとハルくんとアストラくんが戻って来ていた。 「起きたんだね」 「……お、ハル! エリ達今歩いてるところだってよ!」 アストラがスマホを見ながらそう言い、「そろそろ勇仁達戻ってくるって」と私に言った。 私はハルくんのダウンベストを畳み、膝の上に乗せて目を擦る。やっと帰れる、なんて思っていると、ハルくんが少し不安そうな様子で私に聞いてきた。 「優希ちゃんは、アプモンを知ってるの…?」 「…ううん。でも、ハルくんがあの状況を救ってくれると思ったの。実際ハルくんは助けてくれたよね」 ハルくんの目を見て言えば、さっきまで不安そうだった表情が柔らかくなった。 知っていると言ってしまえばちゃんと根拠がある理由を作らなければならないし、今すぐには作れない。それっぽいことを言っておけば優しいハルくんなら信じてくれると思ってそう言ったが、反応は予想通りだった。 「いつかきちんと教えてね」 「…うん!」 2人だけの秘密の約束をすると、丁度エリちゃんと勇仁が駅のホーム戻ってきた。 ハルくんと荷物を持って向かうと、アストラを混ぜた3人で今から亀浦自然公園に向かうかを話し合っていた。 結局行けるところまで行ってみようという話になって駅から出て歩き始めたが、10分ぐらい歩いたところでエリちゃんが音を上げた。私も歩き疲れて足が痛い。 するとアストラがLトレジャーを手に入れたらしく、スマホの画面を私たちに見せてきた。皆も自分のことのように喜び、今日のやりたかったことは達成できたと伺える。 「さて、帰ろうぜ」なんてアストラは軽々というが、モノレールが点検中なのでまた歩かなければならない。 私とエリちゃんは揃って深い溜息をつき、家に帰るため頑張って歩くのを決意した。 |