「おはよう、お兄ちゃん」


起動スイッチを入れてそう呼びかければ、彼は目を開けた。
これは、深海ハルを監視するためにリヴァイアサンが作った対人情報収集用ヒト型起動端末YJ13、通称大空勇仁である。
最初の段階ではやっぱりリヴァイアサンも人工知能なためか少し人間性が欠けていたので、リヴァイアサンの了承を得て私が少し改良した。深海ハルが望む感情や反応をするようにしたり、人間よりも人間らしくして深海ハルの信頼を取れるような、そんなアンドロイドを目指した。
そのアンドロイドの人工知能を微調整するために、私も妹として日常に溶け込んでいた。もう今になっては微調整する所なんてないが、ここまで居てしまったからには最後まで関わり抜くと決めた。それに、深海ハル達と過ごすのも、そんなに悪くはない。

今日は勇仁とハルくんとで遊びに行く予定だ。
勇仁は私に気付くと「おはよう、優希」と声を掛けてきて頭を撫で、そのまま部屋から出て行った。勇仁が起動すれば、私がここにいる意味は無い。


「……゙お母さん゙、朝ごはんは出来てる?」


子供らしく笑顔を浮かべて助手に聞けば、少し間があったが母親役らしく答えてくれた。


「え、ええ、テーブルの上にあるから冷めないうちに食べてね」

「ありがとう!」


そう言うと、私もご飯を食べにリビングに向かった。
勇仁は先にご飯を食べていて、私も正面に座って挨拶をすると近くにあったジャムをパンに塗って一口食べた。


「今日行きたい所とかあるか?」

「行きたい所…? お兄ちゃんとハルくんに任せるよ」

「毎回それだけど…ホントにいいのか?」

「うん、私は2人の後ろついて行くだけで楽しいから!」


監視してるだけで大変だし、特に今日は久々にハルくんと会うのでいろいろ聞き出したいし。
食パンを食べ終わって時計を見ると、まだ8時を回ったばかりだった。待ち合わせは10時だからゆっくり支度しようと思い、二枚目の食パンに違うジャムを塗って食べ始める。
勇仁は先に食べ終わったが、どこかに移動する様子もなく私の方を見ている。何の用だと思いながら二枚目のパンが食べ終わると、勇仁は私の皿を自分の皿に重ねて台所に持って行った。
意外な行動に少し驚いていると、戻ってきた勇仁にまた頭を撫でられた。


「早めに支度しておけよ」


優しそうに微笑みながら言い、リビングを後にする勇仁。
自分の調整した人工知能がここまで出来るとは思ってなかったので大変喜ばしいことだが、何だかモヤモヤして素直に喜べなかった。