神童兄 | ナノ
猫の話
リビングの机の上に猫と音符のモチーフのストラップが付いている携帯があった。
女の子が持っていそうな感じで、誰のだろうと手に取れば「あ」と声が聞こえた。
「それ」
声の主は拓人で、俺の持っている携帯に視線が注がれた。
「拓人の携帯か?」
「はい」
拓人が差し出した手に携帯を渡すと、拓人は自室に戻ると思いきや、俺のことをガン見してきた。俺の今の格好は、ソファーに座りながら足の間にリュート、右腕の方にアリアと猫に囲まれている様子だ。
リュートとアリアとは猫の名前で、俺が海外に居るときに拓人がおねだりして飼ったと聞いた。
二匹の猫は俺にべったりで、足の間にいるリュートの方は居心地良さそうに寝ている。
「……拓人もおいで」
「え、いや、別にそんなわけでは」
微かに顔を赤らめ、身振り手振りをしながら言う拓人。
横に座れ、とソファーを叩くと、しぶしぶ座ってくれた。
俺の右側に拓人が座ると、右腕にいたアリアは拓人の方へ行き、膝の上に移動して丸くなった。
「可愛いもんだな」
リュートを撫でながら言うと、拓人は「はい」と呟くように言った。
寝ていたリュートには悪いが、リュートを持って拓人の方に肌が触れるぐらいに近づくと少し肩をビクつかせる拓人。
リュートを拓人と同じように膝の上に置き、拓人を見れば少し恥ずかしそうな顔をしていた。
「せっかくの兄弟水入らず過ごしたいじゃないか」
自然と和らぐ表情で言って見れば、拓人はこちらを向いてはくれなかったが、猫を撫でながら微かに微笑んで、また「はい」と言った。