神童兄 | ナノ
バレンタインの話

社員の女性達がそわそわし始めると、仕事尽くめの日々でもバレンタインの季節が近づいて来た事がわかる。建物内で甘い香りが漂うし、差し入れとして練習したチョコを貰う。別に嫌いでは無いので構わないが、特別好きでも無いのでほぼ毎日食べていると当日を迎えるまでに飽きてしまいそうだった。そうなる前に口直しの為にブラックコーヒーを飲み始め、他の男性社員も同じ気持ちを味わってるだろうと思い箱で買ってフリースペースに置いたが、「社長がそんな人とは思いませんでした」と反感を買ってしまい、ここだけの話かなり落ち込んだ。

本日はバレンタインの前日であり、金曜日でもあった。ここの会社は週休2日制の土日祝日休みなので当日である明日は会社が休みであり、チョコを渡されるなら今日か週が明けた日に渡される可能性が高い。去年は既製品と手作りが半分ぐらいずつで、既製品の中にはウン万する物やオーダー制の物まであり、くれた女性社員達曰く「お世話になってるので!」と言っていたが、考えていた範囲を遥かに超えていて有難く思いながらも少し引いた。それらは1週間ぐらい掛けて食べ尽くしたが、四六時中チョコを食べていると反動的にしょっぱい物や辛い物が食べたくなってしまい、体重が増えた事も思い出す。
今年はどんな凄いチョコが貰えるのだろうと楽しみにしながら仕事をしていると、滅多に独り言を零さない秘書が「ん?」と声を発した。


「社長、弟さんからメールが届いてますよ。珍しく画像付きで」

「画像?」


何か俺に見せたい物でもあるのだろうか。秘書がメールの文面と画像を印刷して見せて来ると、そこには2色の綺麗なグラデーションになっている薔薇のチョコが映し出されていた。白い皿の上に数個置かれていて、周りは葉を模した緑色のチョコで埋め尽くされている。文面に視線を向けると、「使用人さんの中に詳しい人が居たので作ってもらいました」とあり、多分あの人だなと古い記憶を掘り起こしながら思った。


「綺麗な薔薇のチョコレートですね」


秘書が横から覗き込むように見ながら言い、俺はさも自分の事のように「だろ」と自慢気に返した。このチョコを作った使用人には俺もよく世話になり、受験期の時などに疲労を回復させるために甘い物を作ってくれた事を覚えている。苦く甘い記憶を懐かしく思い自然と口角が上がっている事を知らないまま見つめていると、秘書に「嬉しそうですね」と言われ、俺は照れ隠しをするために思いっ切り笑って見せた。
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