神童兄 | ナノ
また来年の話
朝の空港で今回も母親と拓人が見送りに来てくれた。母親は俺たちに気遣ってくれて、俺に「また来年もきなさい」と言うと、俺たち二人だけにして先に車に戻った。
「時間までまだあるから座るか」
「はい」
そう言って近くの空いている椅子に座り、横にキャリーケースを置く。
拓人は横目で俺の様子を伺いながら俺の隣に座った。
「……そう言えば」
手提げから茶色の封筒を取り出し、中身のものを出す。それはいつの日にかに撮った拓人の2ショットで、直々にサッカー部のマネージャーに貰いに行ったのだ。
是非とも、俺の手から拓人に手渡したいと思って。それを拓人に手渡せば、拓人は写真を手に取る。
「あの時のやつですね」
「丁度俺が拓人の顔の汗を拭いてる場面で、まるで顔に手を添えてるように見えるよな……狙いすぎだ……」
しかし、俺に顔の汗を拭かれて少し顔をしかめてる拓人。レアなので家に帰ったら仕事場のデスクに飾ろうと思う。
「また来年も来ますか……?」
拓人が写真を見ながら口を開いた。写真から俺に視線を向け、思わずバッチリと目が合う。眉毛は少しハの字になっていて、なんだかデジャヴを感じる。
俺は大きなため息をつくと、何かを紛らわすかのように頭を思いっきり掻いた。
「来年のために仕事を効率よく進めないとな……」
「ほ、本当ですか!」
軽く笑いながら言う俺に多大な期待を抱かせてしまった。仕事を計画的に進めるのは苦手だが目的のためなら、ってやつだ。頑張ってやろうじゃないか。
腕時計を見ると、時間が迫っていた。拓人の顔を見て髪の毛をグシャグシャにするように撫でると、立ち上がった。拓人は「何するんですか!」と言いながら髪の毛を直す。
「また来年、会いに来るよ」
最後の兄さんの顔は今までに見たことないぐらいの非常に砕けた笑顔だった。
兄さんは直ぐに振り返って歩いて行ってしまったが、そんな兄さんの背中を見えなくなるまでずっと見てた。兄さんから手渡された写真をもう一度見る。写真に写っている兄さんの顔は、さっきの笑顔と同じぐらいの笑顔だ。
家に帰ったら机の上に飾ろうと思いながらそれを大切に胸ポケットに入れると、手の甲で目元を拭って空港の出口に向かった。