神童兄 | ナノ
花火の話

片手に花火を持ちながら、彩りよく火花を散らす姿を見ていた。


「明日だな」


横に霧野がやってきた。霧野は俺の持っている花火に自分の花火を近づけさせ、火を貰う。持っていた花火に火がつけば、人のいない方向へと花火を向けた。


「ああ」


俺はさっきの霧野の言葉に返事をした。明日、兄さんは日本を離れる。それは前からわかってたことだし、特にどうというものでもない。
しかし、今年の夏は今までの夏休みよりも数倍に楽しかった。正直久々に会った時はどう接していいのかわからなかった。数年前に家を出た際には母親と二人で空港に行き、別れ際に頭を撫でられたぐらいしか記憶になかったのだ。
最初は我ながら遠慮がちだったかもしれない。でも日に日になれていき、やっとこの年齢になって兄弟らしいことができた。正直俺と兄さんは下手したら分かり合えないと思っていたので、とても嬉しかったし、楽しかった。
家で俺の寂しさを紛らわしてくれるのはリュートとアリアだけだったので、夏は宿題と部活とピアノに全てを注いでいた。旅行も遊びも誘われた時にしか行かないし、しなかった。
しかし兄さんが来てからは兄さんに誘われて旅行にも行ったし、遊んだりもした。部員含めて海にも行ったし、食事もした。今年の夏は何もかもが充実していたのだ。


「雨が降ってきたな」


ぽつぽつと雨が手を濡らす。屋根のある場所にあるが、階段に座っているためズボンに雨のあとがある。雨がかからないように座る位置を少しずらし、膝を抱えた。
霧野は何も言わず、俺の手から使用済みの花火を取ると、近くにあったバケツに自分の分と一緒に入れた。水で熱が覚ます音がし、霧野は俺と体が触れ合うぐらいに近くに座って来て、足を投げ出して座る。


「今日は一段と綺麗な空なのに残念だな。早く止めばいいのにな」

「そうだな」


今夜はいつもよりも湿気が少なく、乾いた空気で風が涼しく感じた。
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