神童兄 | ナノ
旅行の話
兄さんと旅行に行くことになった。
お盆に入り部活も休みに入ったため、「拓人、今しかないぞ」と言われ、俺だけ行先も知らないまま新幹線でどこかに向かっている。
「一体どこに行くんですか?」
「関西」
駅弁を膝の上に広げる兄さんは普通に言う。
俺はそれを聞いて少しびっくりした。昨日「旅行に行かないか」と誘われ、急いで準備をし今日の朝から新幹線に乗って、と少しハードなのでもう驚くのも疲れてくる。
「すまないな。俺のわがままに付き合ってもらって」
兄さんは弁当の生姜焼きを口に運ぶ。
「いえ、逆に嬉しいです。兄さんと二人きりで旅行なんて初めてですし」
小さい頃に家族で旅行に行ったことがあったらしいが、正直俺は覚えてないし、それ以降に行った旅行は全部兄さん抜きの家族旅行だった。
俺は今の状況に嬉しくなり、思わずにやけてしまいそうになる。
「……そうか」
口に食べ物を含みながら兄さんはそう言った。
それを飲み込むと、兄さんは一枚の肉と俺を見比べて「食うか」と聞いてきた。俺は有無も言わせられずに口元に肉が運ばれ、それに続けてご飯も運ばれる。
兄さんの表情を見ればいつもどおりに見えたが、少し笑みがこぼれてるのがわかった。