神童兄 | ナノ
屋台の話

日本に帰国してから久々に俺はバイトを始めた。
それは的屋だ。的屋と言うのはお祭りの屋台のことを指し、昔から憧れだったので是非ともやってみたいと思い、バイトの募集に応募した。

仕事の内容はいろいろと大変だった。
俺は男だから屋台を組み立てたりと力仕事が多かったが、俺の配置はセルメンだった。セルメンと言うのは業界用語でわかりやすく言うとお面のこと。
今回初めての俺は、少し年下ぐらいのお兄さんを補佐につけてもらい、風船とセルメンを同時に売ることになった。
セルメンには子供連れや家族連れが多く、中にはお酒に酔っ払ったお兄さんやお姉さんもいた。
値段に驚いて買わない人思いれば、値段を聞いて驚きながら買ってくれる人もいて、小さな男の子や女の子に手渡しでお面を渡せば「ありがとう」と言ってくれる子もいた。
今回のセルメンは客が選んだお面を売るだけなのでとても簡単で、逆に楽しく思えてきたほど。そんなことを考えて花火の音を聞きながら携帯を開くと、時間はもう八時ぐらいだった。
あと一、二時間かなと思っていると、「すいません」と声が聞こえ、俺は携帯を閉じると「はい!」と言いながらすぐさま立ち上がって客の方に耳を傾けた。


「あれ、拓人」


その声の正体は拓人だった。
隣には霧野くんがいて、二人共甚平を着ていてバックを持っている。
霧野くんに「こんばんは」と挨拶をされ、俺は挨拶を返す。


「兄さんが屋台をやると聞いて……」

「そっか。ありがとな」


俺と視線を全然合わせない拓人だが、その理由が恥ずかしいってことぐらい俺は知っている。
俺はテーブルの上に並べられたお面を見て、悩む。そして閃くと、最近人気な子供向けアニメのお面を二つ手に取り、それを二人に差し出した。


「俺のおごりだよ。1個千円なんて正直高いからな」


二人はお面を受け取り、キャラの顔を見ると二人共少し苦笑いをしたが、つけてお互いを見たところ笑いながら「似合ってるぞ」と言い合っていた。
そして二人はお面を顔の横や頭の後ろに付け、二人は屋台の前を去っていった。我ながらいいキャラ選んだと思う。
人気急上昇中のBL小説
BL小説 BLove
- ナノ -