神童兄 | ナノ
霧野蘭丸の話

神童のピアノの発表会に来たところ、神童のお兄さんに会った。雰囲気は似てるが、少し凛々しさを感じる。
神童のお兄さんは俺のことを知っていた。俺は神童のお兄さんのことはつい最近耳にしただけなので、まともに顔を見るのも初めてだし、喋るのも初めてだ。
神童のお兄さんに「拓人が出てくるまでお茶しない?」と言われ、せっかくなので会館の近くにあるカフェに一緒に行った。
カフェで光貴さんと話してて、神童とは全く違う印象を抱いた。神童が中ボスなら、光貴さんはTHEボス。神童が犬なら、光貴さんは狼のボスみたいな。まるで人の上に常に立ってそうな雰囲気の人だ。神童とは大違い。
そんな雰囲気でも実際にはとても優しく、神童と重なる部分がいっぱいある。兄弟だな、と少し感心した。


「俺と拓人似てないなって思っただろ」


光貴さんに言われたことが図星で、少し戸惑ってしまった。
すると光貴さんはそんな俺をみて少し笑い「正直だな」と言った。


「遺伝子の一番近い存在なのにな、俺に拓人みたいな才能ないから」

「光貴さんは楽器を弾けないんですか?」

「全然。習わされたけど上手くならなくてやめたよ」


光貴さんは注文したコーヒーを飲んだ。
俺は出してはいけない話題を出したかのようで少し気まずくなった。そんな気まずい空気を紛らわすため、自分の注文したジュースを飲んだ。


「今日の拓人ピアノミスったのわかるかい?」

「はい、最後らへんの高音の部分ですよね。しかも全体的にぎこちなかったです……」


今日の拓人のピアノはいつもよりもなめらかではなく、どこかぎこちなかった。
こんなぎこちない音のピアノの拓人は、大体何かを考えながら演奏をしている。


「よくわかったね」

「神童のピアノはよく聞くので、いつの間にか分かるようになっていました……」


小学校の時から何回も神童のピアノを聞くために演奏会に来ていた。
音楽は好きではないが長年聞いていればわかってしまう。これが慣れというものか。


「霧野くんは拓人の良き親友だね。これからもあいつを支えてあげて。あいつ一人で抱え込むから」


そう言った光貴さんの顔は笑顔であったが、どこか少し儚げであった。
それから神童がカフェに来ると、光貴さんは神童にお金を渡し、「用事があるから、またね」と先に帰ってしまった。
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