神童兄 | ナノ
幼少期の話

俺が11歳の時に拓人が生まれ、親の視線はそっちに向いた。
当時は俺が名誉のある賞をとっても親はそれにさほどの興味も持たなかったので、弟に少し嫉妬していた時期もあった。
拓人が7歳の時、俺は18歳だった。当時の拓人は甘えるのを知らない子供で、俺に自ら近寄っては来なかった。ピアノのレッスンやカリキュラムを受けさせられていたので、逆に言うとそんな時間はなかったのかもしれない。
拓人はリビングで勉強する派なので学校から帰ってくる時間帯にはいつもリビングに拓人がいた。
そんなとある日、学校から帰ってくるとリビングで拓人がそわそわしながらあたりを見回していた。俺から見る拓人にとって珍しい行動なので、どうしたのかと話しかけてみた。


「どうしたんだ?」


そう声をかければ、小さな声で「あっ……兄さん」と聞こえた。
拓人の目の前にはカリキュラム用のドリルがあった。何かを言いたそうにしているが、なかなか口に出せずにどもっている。


「問題がわからないのか?」


そう聞けば、拓人は大きく首を縦に振った。ドリルを見れば、それは単なる割り算だった。
この家のことだから、7歳であれもう分数ぐらいはやってるんだろうなと思っていたが、随分甘くなったものだ。


「割り算は簡単だぞ。割る数に何をかけたら割られる数になるのかかけ算九九を当てはめればいいんだよ」

「割る数……? 割られる……??」


ちんぷんかんぷんと言いたそうな拓人の顔を見て、俺は丁寧に教えてあげた。
単純な割り算でさえ、問題が解けると拓人は嬉しそうな顔をした。それから後は自分で解いていき、間違っているところを俺が指摘してあげた。
拓人は飲み込みが早く、まるで吸水力のあるスポンジみたいに水を吸い込んでいく。 出来る子は違うな、と妬ましく思う反面、微笑ましくなる。
問題を全部解けば、拓人は俺にお礼を言ってきた。


「兄さんありがとう……!」


拓人の嬉しそうな顔を見て、俺は微笑みながら「全然いいよ」と言った。


「また教えてもらっても、いい……?」

「教えてもらいたかったら部屋においで」


そう言って、床に置いたカバンを持って自室に戻った。その日を境に、拓人が俺の部屋に来るのが多くなった。
教えるのは別に嫌いじゃないし、拓人が俺を頼ってくれていると思うだけで少し嬉しくなった。
「#エロ」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -