神童兄 | ナノ
努力の話
夏は良く眠れない。
暑いのもあるが、エアコンをつければ暑さなんて感じなくなる。俺にとってそれは原因じゃない。夏には良い思い出がない。ないからこそ、眠れない。
気分転換にバルコニーに出て、バルコニーに設置されている椅子に座った。
生暖かい風に少し蒸し暑さを感じるが、それも慣れるのも時間の問題。
俺の部屋と拓人の部屋のバルコニーは繋がっていて、拓人の部屋にはまだ明かりがついている。もう夜中の一時を回るというのに何をやってるのだろうか。
そんなことを思いながら夜空に浮かぶ月に視線を向ける。
社長になってからはこうやってぼーっとする時間もなく、毎日何かをしていた。
仕事は多かったし、やってもやっても終わりは来ない。しかし、そんな生活はもう当たり前になっていた。だからこそ、今のこの暇な時間が無性に寂しく感じる。暇な時間ほど嫌いな時間はない。
無意識に昔のことを考えてしまうこの時間が嫌いだ。
「兄さん?」
窓の開く音がする。
そっちを見れば拓人がいたのはわかったが、光が背景にあって顔などがよく見えない。
「もう寝なよ」
「今から寝るつもりでした」
拓人はそう言いながら隣の椅子に座った。
「ならなんで隣に座るんだ」
「兄さんが寝たら寝ようかと」
少し小生意気な拓人に、俺は鼻で返事をする。
「兄さんは昔からここのバルコニーで夜中に空を眺めるのが好きでしたよね」
「別に好きじゃない」
ほんの気晴らしに来てだけ。と言いたかったが、言う気はなくなった。
確かに。昔からここのバルコニーで夜空を眺めるのが多かった。
夏の時期は部活の大会や夏期講習などで毎日が学校に行くよりも大変で、本当に嫌だった。
本気でやってなかった部活でレギュラー取れなくて落ち込んだりした。あれは自業自得だった。自分の腕に溺れたのだ。
それから夢では自分が見ている窓ガラスの向こう側で、大会で活躍している皆を見るというのが夏休み中ずっと出てきた。 他にも自分が落ちこぼれだって夢や、才能に恵まれない夢、他にもたくさん夏の夜にひどい夢を見た。
そこから夏は嫌いだ。
「拓人は学校が楽しいか?」
「はい。楽しいです」
「部活も?」
「はい」
生まれた時から恵まれてる人間は全てから恵まれてるのかな、なんて思えてくる。
でも結局それは自分の努力不足だとわかった俺は、勉強も運動も全て頑張り、今の俺を作り上げた。
その考えがいいのか悪いのか全くわからないが、俺はそれを自分で気付けて良かったと思っている。