神童兄 | ナノ
取り乱す話

今日は光貴と出かける約束をしていた。サッカーを始めるためにスパイクを買いに行くらしく、光貴の家ならわざわざ店に行かなくても家に来てくれるのではと思ったが、今の光貴に家の話は毒だと思って口には出さなかった。最近では以前よく話してくれた習い事の話も全くしてくれなくなり、弟の事に関しても同様だった。生まれた当時は弟が出来たと喜んでいたけど、今その話題を持ちかけようとするとすぐに話を逸らそうとする。また何か嫌な事が合ったのではと思い詳しく話を聞きたい所だが、今はまだ話したくない気分なんだろうと思いあえて触れないようにしていた。


「よ、成龍」


聞き慣れた声が背後から聞こえ肩を叩かれたので俺は驚くと、彼も一緒になって驚いてしまった。振り向けばそこには私服姿の光貴がいて、俺は「驚かすなよ…」と胸を撫で下ろして言えば光貴は笑いながら謝ってくれた。


「…あれ、そういえば今日は付き添いの人がいないんだな」


俺は光貴の背後や辺りを見回しながら言う。いつもなら遠出をする時は1人や2人光貴の後ろに付き添い人がいるのだが、今日は見当たらない。すると光貴は平然そうな顔で口を開いた。


「僕ももう中学生だからな、追い払ってきたよ」

「追い払うって…お前…」


光貴にとってはしつこい存在だったんだろうけど俺はもうその存在に慣れてしまっていたので、その存在の雑さに少し同情しいない事に寂しさを感じた。俺は苦笑いを浮かべると、光貴は「それに」と話を続ける。


「もう家の者は僕に興味なんてないからな」


そう言った光貴の顔は、心なしか嬉しそうに見えた。「さ、行こう」と手を引かれて店を入ると、俺は先に歩く光貴の背中を見て何とも言えない感情を抱き、頭の中で先程の言葉がぐるぐると駆け巡っていた。可哀想なんて言葉では言い切れないほどの寂しさがじわじわと湧いてきて、今の俺にその感情を理解出来るほどの知能は携わっていなく、何かを言いかけた口は空気だけを吐いた。


「僕ってどんなポジションが合うかな、攻めるのってあまり商に合わないから成龍と同じDFとかかな」


エスカレーターに乗りこっちを見て話す光貴に、俺はぎこちない笑みを返した。なんで、なんでお前はそんなに楽しそうにしているんだ。自分の予想外の取り乱しに自分自身で驚いていた。早くなった鼓動は体中の隅から隅まで伝わって来ていて、なんでこんな状況に陥っているのかも自分で状況を把握出来ていないでいた。


「…どうかした?」


エスカレーターを降りた所で光貴に顔を覗かれる。その表情は至って普通で、より俺の内心のザワつきを増幅させた。俺はバレないように大きく深呼吸をすると、「何でもない、さあ行こう」と言って足を進めた。俺の手首を掴んでいた光貴の手は、いつの間にか解かれていた。
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