それから数時間後、俺達は警察に見つかることなく無事に山梨に到着した。田舎過ぎす都会過ぎないこの場所がとても懐かしく思うと同時に、嫌な記憶も引き起こさせる。もう過ぎた事だと眠い目を擦りながら走っていると、先程起きたばかりのリンカが少し先にあった公衆トイレを指差して「少し寄ってくれる?」と聞いてきたので、俺は左折をして駐車場に入り車を停めると、リンカは霜月と新村に昨日の夜に買った服の入った紙袋を渡した。


「今のうちに変装してきちゃって」


2人は紙袋の中身を特に気にはせず受け取ると、そのままトイレの方に歩いて行った。心の中で「可哀想に…」と思いながら遠くなっていく背中を見ていると、「光貴くんにもあるのよ」とリンカが2人のよりも小さめの紙袋を渡してきた。


「……俺もするのか?」

「光貴くんも警察に顔が割れているんだからしないわけにはいかないわよ」


楽しそうな笑みを浮かべながら言うリンカに対し少し寒気を感じながら俺は紙袋を開けると、そこにはウィッグとアクセサリーが入っていた。俺は頭上にクエスチョンマークを浮かべてリンカを見ると、「私が付けてあげるわね」と言って紙袋を取られ、ウィッグを頭の上に被せてきた。俺は眠くて反抗する気も起きなくされるがままになっていると、少しして「完成!」とリンカが言った。


「ほら見てみて!」


リンカにそう言われて俺はルームミラーで自分の容姿を確認すると、普段の自分よりも明らかにチャラくなっており、耳にはいつの間にか複数のアクセサリーが付いていた。喋るのも億劫で眉間に皺を寄せてリンカを見ると、「似合ってるよ」と言われた。


「光貴くん目つき悪いから余計ガラ悪くなっていい感じよ」


貶されてるのかわからない褒め言葉を受け取って不意にも笑うと、リンカも一緒になって笑った。するとトイレの方から2人らしき人物が帰ってきて、俺はその姿を見てまたもや笑ってしまった。


「これ可笑しくない!?」


霜月が自分の服を掴みながら言う。ピンクを主に可愛らしくまとめられていて、喋らなければ全く男とはわからないぐらいのクオリティだ。横に居る新村も同じぐらいのクオリティかと思って見てみれば、ガタイの良さが裏目に出て女性とは全く思えなく、違和感しかなかった。2人がリンカに文句を言う中俺はその様子をクスクスと笑いながら見ていると、「光貴さんだけずるい!」と霜月が俺に飛び火を掛けて来たので、いい加減宥めてあげた。


〜〜〜〜


「ここがリンタロウの家だった所だ」


俺は駐車場に変わっている土地に視線を落としながら言う。
リンカがリンタロウの家がすぐそこにあるから行こうと言い出し、俺はもう家自体がない事を知っていたが止めるタイミングがわからなく此処まで来てしまった。リンタロウ達の人生を大きく変えてしまった事件の後、誰も住まなくなったので親戚の人達が売りに出そうとしたが、どの不動産屋も取り扱ってくれなくてそのまま取り壊してしまった。あの思い出の詰まった部屋も庭も、今はもう何処にもない。3人は家の跡地を見てしんみりしていると、リンカがその空気を打ち破るように口を開いた。


「どうしよっか…あまり長くここにいても怪しまれるよね…。他に気になる場所はある?」


そう言うと、腕を組んで凛々しく立っているコウが「なぁリンカ…」と声を掛けてきた。ヒールを履いているせいか俺よりも頭が高くなっていて、少し威圧感がある。


「リンタロウとミサキの両親の墓はこの近くなのか?」

「えっ……」


突然そう聞かれ、その情報までは手にしていないのかリンカは俺を見てくる。リンカの事だから調べは付いているんだろうが、俺に聞くのが一番早いと思ったんだろう。俺はリンカから新村に視線を移すと、「ここからそう遠くはないぞ」と言った。


「……そこに行こう、俺達はそこに行かなければならない。…連れて行ってくれ」


新村が真剣な表情を向けて来たので俺は了承すると、森夫婦のお墓に向かって歩きだした。
俺もお墓に行くのは久々だ、と言うかそもそもお墓参りは好きではない。その墓の下に亡くなった人達が埋まっていて花や食料を供えて冥福を祈るのは世間的に良い事だが、俺はその行為自体が苦手だった。亡くなった人に対して物を贈るというのは、亡くなった人のためにではなく今生きている自分達の心を切り替えるための手段に過ぎない。この悲しみを乗り越えて強くなろうなんて綺麗事だ。立ち直れなかったらそれまでだし、乗り越えてもそれまでだ。俺は、亡くなった人をそうやって自分の踏み台にしていくこの世が好きじゃない。


「…光貴くんごめんね」


横を歩いていたリンカが小声で話しかけてきた。その表情はとても申し訳なさそうで、俺は「いや、大丈夫だよ」と柔らかく言った。


「それに、俺も久々だったから」


すると、リンカは安心したように頷いた。
大通りはパトカーが走り回っているので昔の記憶を思い出しながら細い脇道を通って墓場に行くと、一段ずつ階段を上がって行く。森家の場所は少し高台にあり、とての眺めのいい場所にあるので後ろを振り返れば町を見渡せた。


「これがリンタロウとミサキさんの両親のお墓…」


霜月が墓の前でしゃがみ込み、石に掘られた名前を眺めながら言う。今日は空の日差しが柔らかく、なんだかとても穏やかに感じられた。墓の周りは自然に囲まれ青々とした草花や鳥の声に溢れていて、ここに埋まっている人達が安らかに眠れそうな場所だ。新村は霜月の横にしゃがんで2人で手を合わせると、俺とリンカもその後ろで手を合わせた。何を思ったらいいのかわからなく、ただミサキちゃんとリンタロウを止められたなかった事に何回も謝った。


「…よし」

「ここに来て、良かったね…」


終わったのか新村が先に立ち上がり、それに続いて霜月も立ち上がる。すると墓前に赤い何かが置いてあるのがわかり、俺はなんだろうと思ってそれを手に取ると細長い布だとわかった。


「それ…ミサキさんのリボンじゃないかな?」


霜月が俺の手にあるこれを見てそう言い、俺はそれを聞き耳を疑った。昔から肌身離さず持っていたミサキちゃんのリボンが何故墓前の前にあるのだろうか。俺は考えたくない事を考えながらも違うと自分に言い聞かせ、緊張して掠れた声で「どういう事だ?」と聞けば新村が答えてくれた。


「ミサキは、死んだんだ」


新村の後に霜月が何かを言おうとしていたが、そのまま口を閉じた。俺は何も言えなくなりただ頷くと、その墓前の前にあるリボンを手に取って優しく握り締めた。
てっきりミサキちゃんもリンタロウと一緒に逃げているものだと思っていた。まさか死んでしまったなんて微塵も思っていなく、聞かされた今も実は嘘なんじゃないのかと思ってそんなに心に傷を負っていない。だが体は正直なのか、手が微かに震えて変な汗が体から滲み出てくる。


「光貴さん……」


霜月が心配そうに聞いてくると、聞き覚えのある声と階段を上がってくる足音が聞こえた。俺は咄嗟にあの人達だと気付いて隠れる場所は無いかと辺りを見回すと、丁度いい茂みが合ったので「そこに隠れるぞ」と指しながら言って3人をそこに押し込んだ。


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