そろそろリンカ達の話を終わった頃だと思って俺は脱衣所の扉を開けると、それと同時にインターフォンが家中に鳴り響いた。リンカが出ようと思って玄関までの通路に来たが、俺は警察かもしれないと思いリンカに掌を見せて止まれと合図をすると、警戒しながら玄関の扉を開いた。


「すいませーん、こちら速達です!」


扉の前にいたのは配達員のお兄さんで、俺は安堵しながらお礼を言うとそれを受け取った。そして部屋の入口で立っていたリンカに受け取った物を渡すと、リンカはそれ見て俺に対し嬉しそうな様子で言ってきた。


「リンタロウくんの足取りが掴めたかも…!」


その言葉を聞いた新村と霜月が大きな反応を示し、俺達はソファーに座って早速封筒の中身を見てみる。そこには一枚の写真とメモが入っていて、そこにはコンビニを背景に一人の男が写っていた。もしかして、と凝視をすればリンタロウに見えなくもなく、リンカに「これ……」と言うとリンカは「そうよ」と言った。


「髪の色は黒くなっているが、この顔は間違いなくあいつだ…」


新村が俺の持っている写真を見ながら言う。リンカ曰く、この写真は狼ゲームの直後に山梨県のコンビニの駐車場で監視カメラがとらえた物らしい。何をしに地元に戻ったんだろうかと不思議に思い、リンタロウが山梨県に行く理由なんて墓参りぐらいしか思い付かないが、指名手配されている中でそんな悠長な事してる場合ではないだろう。他にどんな理由が合ったんだろうかと考えていると、リンカは一緒にくっついていた2枚目の封筒の封を切った。その中からは新村達も知らない男の子の写真が出てきて、誰だとリンカを見ていると、重そうに口を開いた。


「この青年の名前は、相田ユウヤ…」


相田ユウヤ。それはリンタロウ達の両親を殺した犯人の名前だった。同封してあった写真は相田ユウヤが中学生の頃の物らしく、その何とも言えない表情が両親を殺されてとても落ち込んでいたリンタロウの表情と重なって見え、危なそうな雰囲気がとてもよく似ていた。
そして、その中に一緒に入っていたメモには相田ユウヤの悲惨な人生が書かれていた。虐待してくる母親のために家計を支えていたらしいが、母親はそのお金で酒や男に貢いでいたらしく、それにうんざりしたユウヤは17歳の時に母親を殴り殺し、そして精神病院に入院させられて数年後、あの電車内の殺人事件を起こしてしまった。精神に異常をきたした快楽殺人者かと思っていたが、彼も普通の人間だったのだ。
相田ユウヤの話を聞いて俺達は静かになってしまうと、その空気を断ち切るかのようにリンカが「……さあ!」と切り出した。


「貴方達はこれからどうする?」


新村達に言うが、彼らは少し迷っている様子だった。すると逆に新村が俺達に聞いてきた、「お前達はどうするのか」と。それにリンカは「リンタロウくんを探す」と答えた。リンカはリンタロウの気持ちや思いを聞き、それを記事にして世界中に発信したいと考えている。俺も俺で、リンタロウに会って彼の口から真実を聞きたく、例え新村と霜月がついて来ようが来まいが、それは揺るがない目的だった。
すると新村は少し考えるように顎に手を添えた。彼らは指名手配犯であり、迂闊に出歩けば捕まるリスクが余計高くなるので、リンカの仲間から隠れ家を用意して貰って大人しく身を潜めるのが一番良いだろう。下手にリスクを背負う義務はないんだと思っていると、急に新村が笑いだした。商に合わなそうに口を開けて大きく笑いだし、新村以外の全員が困惑していると、「一つ腑に落ちない事があったんだ」と笑いを止めて普通に喋りだした。


「逃亡し続けるなら、手紙を届けるなんて危険な事絶対にしないほうがいい。これはあくまで俺の仮説だが、あいつは自分の伝えたい事が世間に伝わるまで逃げ続ける気だ…。こんなに絶望を味わったにも関わらず、お前はまだ…」


人は変われると信じているのか…。新村はリンタロウの目的が果たす所を見届けたいと言うと、隣にいた霜月もそれを聞いて覚悟を決めたような表情をした。リンタロウは既に、狼ゲームを経て2人の人間の人生観を変えている。例え世間に自分の伝えたい事を発信し、100人中100人が彼の声に耳を傾ける事は無くとも、1人でも誰かの心に声を届かせる事が出来たなら、そのリンタロウの行動が無駄じゃなかったという事が証明できる。俺は、俺達はその手助けをしたい。命をかけてまでリンタロウがやろうとしている事を、手助けして見届けてやるのは俺達しかいないのだ。


「良いんだな」


俺は新村と霜月に対して真剣な表情で言うと、2人も真剣な表情で返事をしてきた。ずっと睨み付ける様に2人を見続け、視線を外されるかと思いきや2人はずっとこちらを見てくる。2人の意志の強さを確認出来ると、俺は少し微笑んで「ありがとう」と呟くように言った。それは俺の本心でもあり、リンタロウの気持ちを代弁した言葉でもあった。


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