「風呂借りたぞ」


髪を拭きながら居間に行くと、そこには3人がソファーに座っていた。俺の先に入ったユキナリは既に髪を乾かし終えていて、小腹を満たすためか飲み物を飲んでいる。ここはリンカの家で、俺達は作戦を練ると同時に羽を休めるために来た。リンカはまだ自分の存在が警察に認識されていないと思っているが、流石にもう気付かれていると思うので、あまり長居は出来ないだろう。
すると、ユキナリはいきなりリンカにお礼を言いだした。リンカが不思議そうな顔をしている中、ユキナリは俺達を匿っているリンカも危ないんじゃないかと疑問を抱き、俺も「どうして俺達を助けるんだ?」と便乗して聞いた。


「それは…」


リンカはそう言うと、鞄の中から一枚の紙を差し出してきた。するとその横に居た光貴が表情を変えないまま目を瞑り、ゆっくり立ち上がると「風呂に入ってくるよ」と言って脱衣所の方に向かっていった。俺とユキナリはそんな光貴に視線を送る中、リンカはに光貴聞こえないように少し小さな声で話し始めた。


「…光貴くん、この手紙の内容を一切聞きたがらないの」

「どうして、ですか…?」


ユキナリがそう聞くと、リンカは「まずは手紙の内容を知って貰わなくちゃね」と言い、俺に手渡してきた。それはパソコンで書かれたリンタロウから報道関係者に対する手紙であり、狼ゲームの真相と、それに至る経緯が記されていた。


「彼は狼ゲームの事を世間に知らせようとしているのよ…そのためにわざわざ危険を犯して、自ら報道機関にアプローチしたんだろうね…」

「どうしてわざわざそんな事を…?」


俺はその手紙の並べられた文字を見ながら考えた。あいつはアホそうに見えるが非常に計算高く、無意味に危険を犯すとは思えない。文末にある「それを報道し、社会を一変できたら良い」というメッセージに、あいつが狼ゲームで俺達に気付かせようとしていた事を今度は世間に対してしようとしている事がわかるが、現実は厳しく、狼ゲームの事は報道されず経緯にも触れられないまま偽りの情報で指名手配犯としてされている。既に腐りきっている今のメディアに、リンタロウの覚悟が詰まった手紙は通用しなかったのだ。


「私は、ジャーナリストという仕事に誇りを持ってるの。真実を明らかにして、悪を倒す。でもこの国のメデイアは平気で情報を捻じ曲げる。彼の人生を勝手に捻じ曲げているこの状況が許せない」


そう言ったリンカの表情にはいつもの笑みが見えなく、とても真剣だった。俺達は特に何も言えなく沈黙が流れると、ユキナリがそれを破るように口を開いた。


「…そう言えば、この手紙と光貴さんにどういう関係があるんですか?」


この手紙に書いてあったのは狼ゲームの真相や経緯の事であり、光貴が関わっていそうな部分は全く見られない。もしかしたらリンタロウ自身の関係者かと思っていると、リンカは脱衣所の方を見て光貴が風呂に入っている事を確認し、口を開いた。


「光貴くんはね、リンタロウくんが狼ゲームを作る前に一緒に住んでた事があるのよ。所謂、リンタロウくんたちを引き取ってくれた義兄って感じかな」


それを聞き、俺達は驚いた。てっきりリンタロウ達は両親が殺され、その憎しみに耐えれなくて狼ゲームを発案したんだと思っていたが、ちゃんと救いの手を差し伸べてくれる人がいたのだ。そんな人が居たにも関わらず、何故こんな事が起こってしまったのか。それに、光貴はリンタロウが報道関係者に向けた手紙の内容を知りたがらない。彼らの間に何が合ったのだろうかと思っていると、リンカは続けて話をする。


「私も詳しく何が合ったのか詳しく知らないけど、今回リンタロウくんの指名手配のニュースを見て私に連絡をくれたの。光貴くん、本当は警察官で私達を捕まえる側なのに全部ほっぽり出してきちゃったみたいで…」

「え、警察官だったんですか…!?」


リンカの言葉に俺達は驚いた。てっきりリンカと同じフリージャーナリストかと思っていたが、元警察官と言われて今までの行動に合点がいく。帽子を深めに被っているのは既に警察内で顔が割れている可能性が合ったからであり、運転をしている時にやけに遠回りをしていたのは警察が使う目的地までの最短ルート避けて通っていたから。俺はそれに気付くと、少しでも警察のスパイかもしれないと思ってしまった事に申し訳なさを感じた。


「光貴くんがこの手紙の内容を聞きたがらないのは、多分リンタロウくんの口から直接聞きたいから思うの。ま、全部私の憶測だけどね…」


彼、この事に関しては何も話したがらないから。そう言ったリンカの表情は、少し寂しそうだった。


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