目的地に着きリンカが車を降りて数分経った頃、パトカーのサイレンの音が徐々に聞こえて来ては、こちらに近付いている事に気付いた。指名手配犯が病院から脱走して逃げる場所なんて限られているが、自宅というのはもっとも危険な場所だろう。人間は無意識に自宅は安心出来る場所だと思っているが、住所なんて調べればすぐ出て来るし、身内がいれば大切な人をも巻き込んでしまう場である。自宅と言うのは、1番安心かと思いきや1番危険な場所でもあるのだ。そんな場所に戻ってきてしまうなんて、キレ者と言う割には少し抜けているなと思ったが、こんな状況でそんな事まで考えられないかと少し反省した。

そんな事を思っていると、いつの間にかサイドミラーに赤いライトを光らしながらパトカーが映り込んでは目の前に数台の車が停まった。俺は内心焦りながらも平然を装ってスマホを触り出すと、パトカーから警察官が降りて来てはこちらに向かって来た。バレないように視線だけを動かして警察官の方を見れば、歩いてくるのは知らない顔で少し安心する。しかし俺が相手を知らなくても相手が俺の事を知っているかも知れないと思い、帽子を深く被った。そして少しすると警察が車の窓越しから「すいませーん」と声を掛けてきたので、窓を下げれば丁寧に挨拶をされた。


「最近物騒な事件が多くてですね、調査をしながら回ってるんですよ」


あくまで一般市民の不安を煽らないように、爽やかな笑みを浮かべて言う警察官。こんな多くのパトカーを連れておきながら何を言っているんだ、と思いながら「そうなんですかー」と適当に相槌を打つと、警察官は「失礼ですが、ここで何をしているんですか?」と聞いてきた。


「知り合いがこのマンションに住んでまして、今ここで待ってるんですよ」

「あ、そうですかー。ちなみに相手の方の性別は…」

「女ですね」


即答すると、警察官はまた「そうですかー」と言った。そんな下らない話をしていると、パトカー付近にいた警察が響めき始めた。俺と話していた警察官は何事だとそちらを見ると、そこには目的の人物である新村コウと、その新村コウにナイフを突きつけられて怯えているリンカがいた。


「た、た、た、助けてください! 私はたまたま通りかかった一般人なんです…そしてそれは私の彼の車……」


最初はまさか新村コウがそんな事するとは、と驚いたが、リンカのその言葉を聞いて演技だとわかり安心すると、俺も一緒になって焦る演技をしだした。新村コウが迫真の演技をして車の近くにいた警察官を遠ざかせると、車に近寄ってきてはリンカを後部座席に押し込んだ。


「この車を追いかけて来ているのがわかった瞬間、この人質を殺す…。いいな? 俺は本気だからな」


新村コウはそう言うと、助手席に乗り込んでは偉そうに「車を出せ」と言った。俺は震えてそうな声で返事をすると、車のアクセルを思いっきり踏んで猛スピードで来た道を走り出した。それから暫く車の中はエンジンの音しか聞こえなく、新村コウは勿論、俺もサイドミラーを見ながら後ろからパトカーが来ていないかと確認しながら走り続けていた。それからまた暫く沈黙が流れると、リンカがその空気を打ち破るように話しだした。


「ここまでくれば…安心だね!」

「そうだな…」

「ナイス演技! 新村コウ…!」


リンカと新村コウが先程の演技の事で盛り上がり始めると、リンカが「あ、そうだ」と運転席と助手席の間からか顔を出しては俺を指さした。


「この人も私達の仲間だから!」

「…よろしくね、新村くん」

「ああ、こちらこそ」


軽く挨拶を交わすと、新村は俺達の目的について聞いてきた。何故俺の名前、住所までも知っているのか。どうして狼ゲームの存在、そして新村が生き残ったことまでも。リンカはそれに真実を知りたいと、意図的に間違った情報を流しているメディアに対し、その間違いを証明するために調査していると話した。そして新村が共犯者としてされている事も。


「狼ゲームは森リンタロウの復讐劇だった…。両親が殺された殺人事件に関係していた物への復讐…。そうよね」

「そうだ…」


俺はその名前を聞き、少し心が苦しくなった。一緒に住んでいた時は俺がリンタロウ達の心の支えになり拠り所になりたかったはずなのだが、現実はそう上手く行かず彼らの心に復讐心を募らせてこんな出来事を招いてしまった。俺は結局エゴイストだったのだ。こうやってリンカのやろうとしている事にも勝手に首を突っ込んでは、自分のやりたい事のために動いている。申し訳ないと思いながらも、もう止められないでいた。


「…貴方は何故森リンタロウを庇うような事をするの?」


リンカが新村にそう問い掛けると、新村はしばらく考えた後、自身の気持ちを話しだした。リンカから聞くには、新村は被害者側にも関わらず加害者であるリンタロウの事を警察に全く話していないらしく、それは俺も不思議に思っていた。普通なら自分をこんな目に相手などに情けなど無用だと思うはずだが、彼は、“彼ら”は違うようだった。


「実はね、あなたに会う前にもう1人の生存者にもあったんだけど、その彼もあなたと同じようなことを言っていたわ…」


リンカがそう言うと、新村はとても驚いたような声を出した。そしてリンカも驚いたような声を出し、もう1人の生存者である霜月ユキナリの事を話しだした。俺は直接会ってはいないが、車の中から人目見て2人に比べて少し弱々しいく感じたのを覚えている。そんな2日前の事を思い出していると、新村がいきなり「ユキナリの所へ連れて行ってくれないか?」と話しだした。確かに、2日前、今日の時点ではま霜月ユキナリは指名手配犯とはされていないが、48時間も経ってしまえば警察も彼の存在に気付かないはずが無いだろう。リンカがそう言うと、新村は少し表情を顰めた。


「なら、早くユキナリのところへ向かったほうがいい……」

「……わかったわ。光貴くん、よろしくね」


リンカは俺に言うと、「わかった」と返事をし、2日前の記憶を頼りに車を走らせた。


「#エロ」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -