「それじゃあこれから私が運転するから、光貴くんは助手席に座ってね!」


いつもより帽子を深く被って目元を隠す光貴くんを助手席に押し込みながらそう言うと、光貴くんは元気なさそうな声色で「うん」と頷いた。
これから私達は、ユキナリくんが「別の場所を探しに行ったほうが良いんじゃないか」と提案してきたのでそれに賛同し、カナタくんも連れて目撃情報があったコンビニに向かう事になった。本当はカナタくんを連れていかないつもりだったが、カナタくんはダダをこね「1人で探しに行く」と言い出し、言っても聞かなそうだったのでしょうがなく。それにあのままほっといてカナタくんが1人で探しに行ってしまった場合、警察に補導されてリンタロウと住んでいた事を話してしまう恐れもあったので、連れてきて正解だったのかもしれない。




「……確かこの辺りだったと思うんだけど…」


私は今朝の記憶を思い出しながら例のコンビニまで行くと、駐車場に入って車を停めた。少し聞き込みをするために光貴くんとカナタくんを車に残してコンビニに入ったが、そこで得られる物は何も無かった。コンビニは沢山の人が使用する店なので、指名手配犯でもあるリンタロウくんが出入りしても、バレる確率はそう高くはないだろう。期待外れだったけど、予想内だ。次は近所で聞き込みをしようと車を走らせて道行く人に話を聞いてみたが、それも駄目だった。


「クソッ何処にいるんだ…」

「しょうがないわよ。リンタロウくんも指名手配されてるんだから、そんなに目立った行動ができないのよ」


イラつくコウくんを宥めるように私は言う。カナタくんが言うには、リンタロウくんは2日前に家を出たらしい。という事はリンタロウくんはもう山梨にいないかもしれない。ユキナリくんとカナタくんがそんな話をしているのを聞いて、私もそうかもしれないと思った。2日もあれば東京に戻る事なんて容易く、そのまま違う場所に逃げて隠れる事も出来る。リンタロウくんの探す範囲を広げたほうが良いかも知れない。そう言うと、ユキナリくんは口を開いた。


「やっぱり、東京で拘束された人は、本当にリンタロウなんじゃ……」


その言葉に、私達の不安も更に募る。カナタくんはその言葉を聞いてとても不安そうな表情をし、それに気付いたユキナリくんが「誰かがリンタロウお兄ちゃんを見つけたってことだよ」と言い直せば、カナタくんの表情は一変して明るくなった。本当はそうあって欲しくはないけど。

それから私達は東京に向かって車を走らせていた。コンビニの駐車場でこれからどうするかという話になり、コウくんの「この2日間のリンタロウの行動が知れたら…」という言葉を聞いて隠れ家の事を思い出し、そこに向かうことにした。隠れ家には私と一緒にリンタロウくんの事を調べているジャーナリストがいるし、そこに行けばリンタロウくんのまだ知らない情報が掴めるかも知れない。先程流れてきたラジオでリンタロウくんが捕まっていない事も確認出来たし、私は安全運転を心掛けながらハンドルを握っていると、後部座席に座っていたカナタくんが「ねぇ」と声を掛けてきた。


「後ろの方から何か音が聞こえない?」


その言葉にコウくんとユキナリくんが驚くと、即座に後ろを向いた。私もサイドミラーで後ろを確認すると、先程まで無かった赤いサイレンを鳴らす白黒の車が視界に映って私達は焦る。


「リンカ、どうにかして撒けないか」

「どうにかしてって言っても…」」


コウくんの無茶振りに私は大変困った、今走っている道路は横道がなく逃げ道が何処にもない。どんどん近づいて来るパトカーに私は焦りが募り、こういうのは光貴くんが得意なんだけどな、と思いながら隣に座っている光貴くんに助けを求めようとして視線を一瞬向けると、光貴くんは正面を見て口を開いた。


「…リンカ、あそこだ」


光貴くんは大きな観覧車が見える所を指差し、私は何故そこに行くのか理解する前に「了解」と言ってそっちにハンドルを切った。多分遊園地に向かうのは人混みの中に紛れるためだろう、あの中に入ってしまえばそう簡単には見つけられなくなる。私は遊園地の駐車場に入って車を停めると、即座に降りて中に逃げ込んだ。光貴くんは何か言いたげだったが、どうせ聞いても「何でもない」と誤魔化されてしまうので気にしないようにした。


「この格好じゃまだ遊園地に溶け込めてないわ…。よし、あなた達はここで待ってて」


私はそう言って辺りを見回すと、お店を見つけたので周りに注意しながら駆け足で向かった。中に入ってこの遊園地のキャラクターの耳が付いているカチューシャを目にすると、これで少しは警察の目を誤魔化せるかも知れないと思って人数分を手に取ってレジに持っていく。そして皆が待っている場所に戻れば、私はその場で皆の身嗜みを整え始めた。買ってきた物を頭に付け、化粧品で可愛い模様を描いてやり、この遊園地を心の底から楽しんでいるように演出をする。


〜〜〜〜


「思った通りだったね、コウさん」

「どうして、お前と逃げてるといつも変な格好ばかりさせられるんだ」


可愛く化粧をさせられた霜月と新村の表情は、既に諦めている様子だった。リンカはそれに対し「しょうがないじゃない」で済ましていて、何だか今になって可哀想という感情が湧いた。それにしても、先程から辺りを観察しているが警察の姿は見えない。もしかしたら先程のパトカーは俺達を追いかけていたわけじゃなかったのかもしれない。しかしここに警察官が紛れていないとも断定出来なく、油断は出来ないので3人と話し合った結果ここでもう少し様子を伺う事にした。

それから数時間カフェ等に入って客を装いながら周りを警戒するも、それらしき姿はない。喉の渇きも空腹も充分満たしたので新村が「そろそろここを出て東京に向かうか」と言い出し、俺も賛同しようとした所、カナタくんが眉毛をハの字にさせて「お兄ちゃん…」と新村の顔色を伺うように言った。


「ぼく…ここで少し遊びたい…」

「遊びたい? こんな時にゆっくり遊んでる暇なんてないに決まってるだろ」


新村のキツイ口調にカナタくんは黙ってしまうと、俺はカナタくんの肩に手を回して掴んだ。泣いてしまうか? そう思ってカナタくんの顔を見ようとすると、リンカが「ちょっとぐらい良いじゃない?」と言い出した。


「何を言っている。俺達は急いで東京に向かっている最中なんだぞ?」


新村の発言も一理ある。俺達は今すぐにでも東京に向かい、リンカの隠れ家にリンタロウの情報があるかを確認しなければならない。しかしカナタくんの表情を見ると今にも泣きそうな表情を見てしまうと、そう言うのを躊躇ってしまう。新村もカナタくんのその顔を見て諦めたように「仕方ない…」と言うと、カナタくんの表情は一気に明るくなって満面の笑みが浮かんだ。


「良かったねカナタくん。何か乗りたい物でもあるの?」


霜月がカナタくんに優しく聞くと、カナタくんは元気良く「ジェットコースターに乗りたい!」と言った。それを聞くと、さっきまで厳しい顔をしていた新村の表情が一気に真っ青になった。まさか新村はジェットコースターが苦手なのだろうか、霜月とリンカはそれに察しがつくと新村の両腕を掴んで強引に引きずりながらジェットコースター乗り場まで行ってしまった。取り残された俺は近くのベンチに座ると、たまには休憩も必要か、と思いながらその背中を見送った。


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