どうやらカナタくんに両親はいないらしく、施設で暮らしているらしい。その場所は墓場の近くの森の中にひっそりと佇んでおり、周りに人の気配はなく穏やかでのんびりとした場所だった。俺もこの近くにこんな施設があったとは知らなく、何だか隠れてひっそりと暮らしているように感じた。
車を停めて降りると、真っ先に降りたカナタくんが元気そうに「入って入って」と誘うので言われるがままに入ると、カナタくんの「ただいま」の挨拶で家の奥から子供達が出迎えてくれた。


「カナタくんおかえりー!」

「あれ? そのお兄ちゃん達は誰?」

「えっとねー、リンタロウお兄ちゃんのお友達だよ」


カナタくんがそう言うと、子供達は納得して俺達に礼儀正しく挨拶をしてきた。何だか微笑ましい光景で俺達も優しく返すと、カナタくんはもしかしたらリンタロウが帰ってきてるかもしれないと思って部屋の中に走って行ってしまった。俺達もここでずっと立っているのも邪魔なので靴を脱いで上がると、カナタくんのいった方向に足を進めた。

するとリビングらしき空間で立ち尽くすカナタくんが見えたので、新村が「リンタロウはいたか?」と聞いてみた物の、やはりリンタロウはいなかった。ここでリンタロウの手掛かりが掴めるかもと思ったが、指名手配犯の身で自分の作戦や居場所がバレてしまいそうな物を迂闊に残すとは考えられない。もしかして無駄足かと思っていると、霜月が「ねえ」と声を掛けてきた。俺はなんだと思って霜月を見ると、指している方向に目を向けた。そこにはリンタロウとカナタ、他に沢山の子供達が写った写真が飾られていた。その写真のリンタロウは心なしか優しく見え、何だかとても胸が苦しくなった。


「どうして、リンタロウはこんな所にいたんだろう…」

「確かにそうよね…。ここにいる人達も流石にリンタロウくんの素性を知らないとは思えないわ…」


霜月の疑問に、リンカも不思議がっていた。普通の人なら指名手配犯など社会の敵で微塵も関わりたくない存在のはずだが、かくまっていてしかも子供達に好かれている。一体リンタロウとこの施設にはどんな関係が合ったのだろうと考えていると、足元から「ねえねえ」と声がして服を引っ張られた。それはカナタくんではない違う男の子で、俺は怖がらせないようにしゃがんで「何か用かな?」と優しく聞けば、男の子は背中から写真立てを出してきた。


「お兄ちゃんてさー、この人と同じ人?」


それは、俺と姉弟の写真だった。

その写真は俺達がまだ幼い頃の物で、俺が真ん中に座ってミサキちゃんとリンタロウの首に腕を回して満面の笑みを浮かべている物だった。俺自身も今の今までこんな写真を撮った事を忘れていて、見た瞬間撮った当時の記憶がじわじわと蘇ってくる。俺はその写真立てを受け取ってまじまじと見ながら「そうだよ」と言った。


「やっぱり! 髪の毛の色とか全然違うけど、顔が似てるからそうかなーって思ったんだ!」


男の子はクイズに正解したかのように嬉しそうに言った。子供というのは大人が思っている以上に周りの事を見ているとよく言うが、それは子供と大人で見る物が違うからだ。子供はわからない物だから沢山の情報を得ようとして細部までしっかりと見るが、大人は既に知っているからこそ細部まで見るのを怠ってしまう。この男の子が俺に気付いたのも、特徴的な髪の色や服装ではなく顔で覚えていたのだろう。しかし幼少期の頃の写真を見て俺と当てるとは、そんなに顔が成長していないのかとショックを受けながら少し顔を撫でた。

「この写真ね、お兄ちゃん達の部屋に飾られてていつも気になってたんだ。写真の事聞いてもお兄ちゃん達全然教えてくれなくて……」

男の子は俺が持っている写真立てを指しながら言う。部屋? まあここでかくまって貰っていたのなら部屋ぐらい貸してくれていただろうが、その存在を知ると俺は急にそこに行きたくなった。俺は男の子に「その部屋に連れてってくれないか?」と聞くと、男の子は「いいよ」と元気よく言ってくれて俺の腕を掴んで引っ張り始めた。俺は覚悟を決めて立ち上がると、リンカに行く事を伝えて男の子に連れられるまま2階に上がった。




「ここがそうだよ」


男の子が扉を開けた先には、カラフルな壁紙に囲まれて懐かしいそれっぽい荷物が置いてあった。そこは俺の家の2人が使っていた部屋を彷彿させ、静まっていた感情が腹の奥底から這い上がってきて一気に気分が悪くなる。体温が下がり、寒気を感じて腕を触れば鳥肌が立っていた。男の子はそんな俺の様子に気付いて「大丈夫?」と聞いてきたが、俺は「大丈夫だ。先に皆の所に戻っててくれないかな」と言って男の子を先程の場所に返すと、心臓を落ち着かせるように深呼吸をしてベッドに近寄った。
皺1つないシーツを指先で触ると微かな温もりを感じたような気がして酷く切なくなった。自分の拒否反応を乗り越えた先にあったのは今まで溜め込んで来た感情で、俺は目頭が熱くなると抑えきれない感情を嗚咽にして漏らした。


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