声の主は思っていた通りの人だった。その人の手には花束が抱えられていて、それを森家の墓前に手向けると、後ろにいた部下と一緒に両手を合わせた。彼らはリンタロウを追っている身にも関わらずこんな事をしている場合かと失礼な事を思っていると、彼は森家の墓石に向かって何かを話し始めた。


「こんにちは、僕は神崎ソウシロウと申します」


それから話したのは、今自分たちがリンタロウを捜索している事。リンタロウの家族を大切に思う気持ちで、ここまで行動している事に対し本当に尊敬している事。その言葉は聞いているだけでも誠意が伝わってきて、嘘偽りなく聞こえた。てっきり、警察の上層部は更に上の人達の良い人形に使われている木偶の坊かと思っていたが、ちゃんと人間的思考を持っている人もいたようだ。


「しかし、我々警察は彼を捕まえなければいけません…、彼は人を殺してしまった…彼が犯した罪は許されるものではありません」


だから、僕は責任を持って彼を捕まえます。
俺は、その言葉がとても深く胸に突き刺さった。本当は俺もあっち側の人間だったのに、周りの事を何も考えなく自ら決めてこっち側に来てしまったのだ。警察になった俺を「カッコイイ」と言ってくれたリンタロウは、今の俺の姿を見て何と思うのだろうか。俺は、警察官としてリンタロウと再開する方が正しかったのだろうか。考えれば考えるほど今の自分の意志が揺らぐが、今となってはもう無駄な足掻きだった。

すると、急に静かだった墓場に携帯の着信音が鳴り響き、彼はそれを手に取って耳に当てた。どうやら東京の捜査班からの電話らしく、俺達は何か重要な手掛かりが得られるかも知れないと思い、固唾を飲んで彼の言葉に耳を向けた。


「え、本当!? すごいね〜、じゃあ僕達もすぐにそっちに戻るよ…!」


嬉しそうな声色で彼は言うと、「連絡ありがとー」と言って電話を切った。全く会話の内容は把握出来なかったが、何か警察側に良い事が合ったのかと思っていると勝手に内容を話し出してくれた。


「ようやく身柄を確保できたみたい」

「本当ですか?」

「うん。あの4人は後回しだ…。ツバキちゃん、早速東京に戻ろう」


身柄を確保と言う言葉に俺達は顔を見合わせると、皆似たような表情をしていて考えている事は同じだと悟った。彼らはリンタロウの両親に挨拶を告げると来た道を戻って行き、俺達も茂みから出ると話を始めた。


「もしかして…リンタロウが捕まったのかな?」


霜月がとても心配そうな表情で言う。俺もあの話を聞いた時そう思ってしまったが、他の重要人物かも知れないと言う可能性も無いわけではないし、あの話からではリンタロウの事とは断定できない。このまま焦って東京に向かっても逆に俺達が捕まってしまいそうだ。


「動揺するのもわかるけど、まずは落ち着きましょう…」

「あぁ、リンカの言う通りだ。俺達がジタバタした所で状況は変わらない…」


リンカと新村が霜月を宥めるように言うと、その言葉で少し落ち着きを取り戻したのか2人にお礼を言った。それから捕まった人物とは誰か、それを先に調べたほうが良いんじゃないかと話が出たが、新村が今の警察に近付くのは危険だと判断し、山梨の目撃情報の方を調べるのが優先だと言った。俺もリンカもそれに賛成し、早速目撃情報があったコンビニに行こうと墓地を後にしようとすると、可愛らしい声が俺達に向かって問いかけてきた。


「お兄ちゃん達、リンタロウお兄ちゃんを探してるの?」


そこにいたのは全く知らない水色の髪をした少年だった。人懐っこそうな笑みを浮かべてこちらを見ていて、俺達は少年の発せられた言葉に驚いていると、霜月が少年と話しやすいように腰を低くして話を聞いた。


「今、リンタロウって言った?」

「うん」


少年はハッキリとそう言い、霜月はポケットからリンタロウの写真を取り出してそれを見せると、また元気良く「うん」と返事をした。まさかこんな少年がリンタロウの手掛かりになるかも知れないとは思わなかった。俺も霜月の横にしゃがんで少年を見ると、「君の名前は?」と怖がらせないように優しく聞いた。


「僕の名前はカナタ」

「カナタくんか、リンタロウは一緒じゃないのか?」

「うん…僕もリンタロウお兄ちゃんを探しに来てたんだ…」


カナタくんは少し寂しそうに言った。カナタくん曰くリンタロウは一緒に住んでいるらしいが2日前から帰って来ていないらしく、本当なのかと少し疑っていると、ふと服に付いていた猫のバッチが目に入った。


「…この猫のバッチ可愛いね」

「これはリンタロウお兄ちゃんがくれたんだ!」


そうなんだ、と笑みを浮かべて言ってあげて隣にいた霜月を見ると、彼は「確かにそれはリンタロウの身に付けていたものだよ」と言ってきた。それでカナタくんの言っている事が本当だと確信が持てると、俺はやっとリンタロウの居場所に1歩近付けたような気がした。

カナタくんがリンタロウの居場所を知らないかと聞いてきたが、俺達も探している最中なんだと返すと明らかに残念そうな顔をされ、少しだけ胸が痛くなった。すると、後ろにいた新村がカナタくんに話し掛けた。


「なぁカナタ、どうして俺達の事を知っているんだ?」

「え、どういう事…?」


新村の発言にリンカが聞くと、新村は説明をし始めた。どうやら「お兄ちゃん達」と呼ばれたのが気になるらしく、別に俺がいるので何も不自然は無いと思っていると、カナタくんが「お兄ちゃん達の事知ってるよ!」と言ってきた。


「テレビでリンタロウお兄ちゃんと出てる人でしょ? 一緒にテレビを見ていた時、長い髪の方のお兄ちゃんが映ったんだ、その時突然リンタロウお兄ちゃんの様子がおかしくなって…」


子供と言うのは大人の事を俺達が思っている以上に見ているし、新村の指名手配犯のテレビを見て動揺したリンタロウの印象が強かったのか、それが記憶を結び付けて新村の顔が印象強く残っていたのだろう。その日を境にリンタロウは外に出ることが多くなったらしく、家に帰ってきても別人のような気がしたとカナタくんは言ってくれた。


「リンタロウは他に何か言ってなかったか?」


新村が聞くと、カナタくんは再び口を開いた。


「その日から、リンタロウお兄ちゃんはよく独り言を言うようになったんだ…。急がないと、時間がない、って…」


それは、指名手配になった2人が捕まってしまうと言う言葉だろうか、それとも他に何かする事でも合ったのだろうか、今の俺では何も予想が出来ない。


「ねえ…お兄ちゃん達はリンタロウお兄ちゃんの友達何だよね…?」


カナタくんにそう聞かれると、俺達は黙ってしまった。しかし、霜月が気を効かせて「そうだよ」と言えば、カナタくんは「お兄ちゃん達ならリンタロウお兄ちゃんを見つけて元気にしてくれるでしょ?」と聞いてきた。それに霜月と新村は少しの間黙ってしまった。無理もないだろう、2人は元気にする所かリンタロウに殺されそうになった側なのだから。俺はどうやってこの微妙な空気を切り抜けようかと考えていると、新村が口を開いた。


「…あぁ、約束するよ。…俺達が必ずリンタロウを見つける。だから、俺達をリンタロウと住んでいる家に連れて行ってくれないか?」


その発言にリンカと霜月は勿論俺も驚き、言葉は嘘なのか本当なのかは本人しか到底わからなかった。カナタくんは良い笑顔で「いいよ」と言うと、俺達は車を停めた場所に戻ってカナタくんの家に向かった。


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