学校からの帰り道、今日の晩御飯は何が良いだろうと話をしながら学校であった嫌な事や密かに調べている事件の事を頭の隅で整理していると、僕達の家の前に誰かいるのがわかった。50代ぐらいの人で、全く身に覚えのない男性だ。僕は、まさか事件の事を調べて家まで来た記者かと思い、心して話しかけてみると、その男性は僕達を悪意のなさそうな顔で睨みつけるように見た。


「君達、この家の人?」

「そ、そうですけど…」


僕は姉さんの一歩前に出て、いつでも守れるようにする。すると男性は小さな声で「へえ」と言って頭を掻くと、それ以外何も続かなく男性はドアの前に立ったまま退こうとはしなかった。家には入れないわけでは無いが、開けた途端無理矢理入られそうで少し怖い。僕はどうしようと思考を巡らせていると、背後から足音が聞こえた。振り向けばそこにはスーツ姿の光貴さんがいて、僕と目があった。しかし光貴さんは僕から目を外し、家に前にいる男性の方へと視線を向けた。


「よお、光貴。最近は電話にも出てくれねえじゃんか、母さんが悲しんでるよ」

「…俺も忙しい身なので」


そう言った光貴さんの顔は、僕達には1度も見せたことないような冷たい表情だった。


「そうだ、この子達は? 俺何も知らないんだけど」

「…知り合いの子だよ、少しの間だけ引き取ってるんだ」

「何? 俺達に金くれないでこの子達に使ってるの? 正気?」


赤の他人だよ? そう言った男性の嘲笑うような声が僕達の胸に刺さった。
確かに、僕達と光貴さんは親戚でも何でもない、ただ家が近くて親しかっただけの赤の他人だ。この数ヶ月、実の家族のように、僕達に兄が出来たように光貴さんと接してきたが、男性の言葉で一気に夢から現実に引き戻されたような気がした。なんとも言えない感情が再び湧いてきて、僕も姉さんも息が熱くなるのを感じる。すると光貴さんはポケットから鍵を出してドアを開けると、僕達を見て「先にご飯食っててくれ」といつもの表情で言ってくれた。そして男性の腕を掴み、エレベーターの方に引き摺るように歩いて行った。すれ違いざまに見た光貴さんの表情は眉間の皺が寄っていて、光貴さんに対して初めて恐怖を覚えた。僕は手の側にあった姉さんの手を思いっきり握り締めると、姉さんを落ち着かせるようにしながら自分の中に湧き出たいろんな感情も落ち着かせようとした。


〜〜〜〜


「まあさっきは少し言いすぎたよ、だからそんな怒んなって」


本当はマンションの駐車場でとっとと話して帰らせるつもりだったが、父親が「お互い少し頭を冷やそう」と言って以前も来たことある喫茶店に連れてこられた。目の前に座る父親はさっきとは打って変わって申し訳なさそうに見えるが、全然そんな思いは伝わって来ない。丁度注文したカフェオレが来たが、俺は手を付けず、父親を見たくないがためにカフェオレの入ったカップだけを見つめていた。


「しかしお前が、な。妹達には全然興味なさそうだったのに」


父親は背もたれに寄りかかって溜め息をついた。確かに、俺よりも甘やかされて育ったのかわがままで、物に対していちいちケチを付けたりと俺の苦手な人種だったため、率先して関わりには行かなかった。それに俺がしてあげなくても両親がするので、俺が手出しすることは何もなかったはず。


「父さん達が何でもしてあげてたから十分かと」


それに、妹達も俺に対して関わりには来なかったし、俺を見てこそこそと話してはこちらの様子を伺っていた。家の中のはずなのに居心地は学校みたく、心身ともに疲れきっていたのを覚えている。一体何を話していたかなんて知らないが、大体予想が付いているので知る必要もない。俺は少し冷めたカフェオレに手を掛けると、一口飲んだ。


「あの子達は両親を亡くして、親戚にも見捨てられて、俺しかいないんだ。妹達と違う」


そう言ったが、父親は何も返してこなかった。けどそんなのは特に気にしなく、俺は今日の晩ご飯は何だったんだろうと考えていた。すると父親は「お前さ」と少し気怠気に話をし始めた。


「そう言う所、相変わらず変わってないんだな。……昔捨て猫に餌あげて、恩返ししてくれた事覚えてるか?」


急に何の話だろう、俺はそう思いながらも「ああ」と返事をした。小学生の頃だろうか、俺が庭で菓子パンを食べていたら猫が尻尾を揺らしながらこっちを見ていたので、食べ物が欲しいのかと思って菓子パンの欠片をあげた事がある。それから度々餌を貰いに来るようになり、俺はその度何かをあげていた。ペットを買ったことが無かったので、餌で釣られているだけだが懐いてくる猫がとても可愛くて嬉しかった。


「まあ猫に限っての話じゃねえけど、人って言うのは弱ってる所に救世主が現れると誰だって嬉しいさ。あの2人も、そんな状況で現れた救世主が光貴ってわけだ」


何が言いたい。父親の回りくどい話に、少しだけ苛立ちを募らせた。


「過酷な状況ほど優しくされたら、感謝の思いは増幅するよな。…それはただの自己満足なんじゃないのか?」

「そんなんじゃない、俺は2人に見返りなんて求めていない。ただ幸せにしてあげたくて…」

「それだよ。2人を幸せにしてあげたいから引き取った。もしも、あの2人じゃなくて妹達がそうなってたらどうした? 勿論引き取ってただろう? 可哀想だからの理由で」


確かに、妹達が2人と同じ状況だったら引き取っていただろう。でもそんな例え話今は全然必要無いのでは? 現状は妹達では無くあの2人であり、昔から親睦も合ったため比べる物が違う。俺の事を白い目で見ていた妹達とは、全く。
込み上げる怒りを抑えて黙ったまま父親を見ると、心なしか不気味に笑っているように見えた。

「妹達に好かれなかったから2人に乗り換えでもしたんだろう」

「そんなわけ……!」

「自分の思い描いていた理想の兄妹になれた事が嬉しいか? お前、近所に死んでたチビっ子と遊ぶ度言ってたもんな、妹か弟が欲しいって。それは結局幸せにして“あげる”じゃなくて、幸せにして“もらう”なんだよ。今のお前は自分の心の隙間を埋めているだけだ。そんなんじゃ、お前の心を満たすために利用されているあの2人が」

可哀想だよ。

父親の言葉に俺は感情が抑えられなく、テーブルと思いっきり叩いて立ち上がった。賑やかだった店内は一気に静まってしまい、俺に注目が集まる。しかしそんなのは気にしなく、俺は財布から1000円を抜いてテーブルの上に置くと、鞄を持って逃げるように店を出た。
俺達がどんな生活を送ってきたのかなんて知らない癖に好き放題言いやがって。妹達の変わりでも、利用しているわけでもない。森リンタロウと森ミサキという人間を本当に幸せにしてあげたくて俺が決めたことなんだ。自分の心の隙間を埋めているんじゃなくて、俺が2人の心の隙間を埋めたいんだ。お前に可哀想なんて言われる筋合い何て微塵も無い。人は誰しも好かれたいに決まっている。例えそれが自分の服装、作品、自身で合っても、好意を寄せられれば嬉しい。それが合って人は更に良くしようと努力をしたりするのだが、逆にそれが無ければ努力しようとする意識は失せてしまうだろう。父親は俺を後者の人間とでも言いたいのか。

心の中で父親に言われた言葉を全否定しているが、当て嵌ってしまう自分もいて悔しく、家までの道のりを歩く足が止まってしまう。今すぐその場で泣き崩れてしまいそうだったが、必死に感情を抑えて溢れ出た涙だけを必死に拭っていた。
腕時計を見れば、時刻は6時を過ぎた所だった。今から家に帰っても、2人にどんな顔をして何を話せばいいのか全く分からなかった。


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